3章

第86話

 レジーナへの弟子入り試練にロゼッタが合格した次の日。

 学院の総長室にて竜の神獣ルーベウムの卵殻から人神の神霊が誕生した。

 そして、俺は今、名前のない神霊に名前を付けるよう求められていた。


「名前かー。何かいい名前ないかな?」

 俺はその場にいる弟子たちを見回した。

 この場には、俺の前世の弟子四人の全員が揃っている。

 つまり剣聖ゼノビア、小賢者ミルト、水神の愛し子ディオン、勇者レジーナだ。


 それにルンルン以外の俺の仲間になった神獣もいる。

 レジーナの頭の上では、神獣スライムのフルフルがプルプルしている。

 ディオンの頭の上にはヤギの神獣、シロが乗って楽しそうに「べえべえ」鳴いている。

 竜の神獣ルーベウムは俺のひざの上で眠っている。


「神霊様のお名前は、師匠がお考えになるのが一番かと」

 弟子たちの中でも最年長の竜人族ドラゴニュートのディオンが言った。

 すると、他の弟子たちもうんうんと頷いている。


「ぼくもウィルに考えて欲しいなー」

 神霊の少女自身もそんなことを言う。


「そう言われても、俺は名前考えるの苦手なんだよね」

「それでも、ウィルが考えて」

 そう言われたら、俺が考えるしかない。


「そうだなぁ」

 俺はしばらく考えた。


「フィーとかどうかな?」

「フィー? それはどういう意味?」

「昔の言葉で、妖精とかそういう意味」

「ぼくの見た目が妖精似ているから?」

「まあ、そうだけど……気に入らない?」

「安直な気もするけど、音が可愛いから気に入ったよ」

「それはよかった」

「ぼくの名はフィー! 人神の神霊にしてウィル・ヴォルムスの従者なり!」

 フィーはご機嫌に宣言した。


「きゅる?」

 その声でルーベウムが目を覚ました。

 せっかくルーベウムが起きたので、フィーに紹介しておく。


「この子がルーベウムだよ。ルーベウム、この子がフィー。人神の神霊だってさ」

「よろしく。フィー」

「よろしくだね。ルーベウム」


 そして、フィーはルーベウムの頭を撫でる。

 大きさも近いし、年も近いしで、仲良くなれそうだ。


「ディオン。フィーがいきなり従者とか言い出したんだけど、これって……」

「はい。恐らく名付けの効果かも知れません」


 名前を付けると口調が変わったり、賢そうになる。

 ルーベウムの時のことを聞いたときは魂がリンクするから、どうのこうのと言う話だった。


「シロやフルフル、それにルンルンもそんなことなかったのにね」

「師匠。もしかしたら、あったのかもしれませんよ」


 そう言ったのは小賢者ミルトだ。

 ミルトは魔法の第一人者で、色々なことに詳しい。


「ミルト、どういうこと?」

「シロたちとも魂がリンクし、知能が上がったりしていた可能性はあります」

「なるほど。人語を話せないから気づきにくかったということかな?」

「恐らくは」


 俺はシロとフルフルを見た。

「……シロ、フルフル、そうなの?」

「めえめえ」

「ぴぎぃ!」

 どうやらそうらしい。


「いや、待てよ。話している内容がわかるのも名付けの効果かも?」

 一瞬そう思ったが思い直す。

 名前を付ける前から、何を言いたいのか大体わかった。


「でも、大体意味はわかっていたけど、確かに最近はよりはっきりわかる気がする」

「恐らく、名付けの効果でしょうね」

「過ごす時間が長くなったからわかるようになったのだと思っていたけど……」

「それもあるかもしれませんね」


 俺が神獣の言っている意味が分かる理由には色々あるようだった。



 その後は、俺と弟子たちは雑談をした。

 フィーとルーベウムは、ゼノビアの総長室が面白いのかふわふわ飛んで色々見て回る。


 俺はレジーナが使用している巨大な変わった武器を見せてもらったりした。

 武器づくりの、よい参考になりそうだ。


 するとレジーナが言う。

「師匠が腰にむき出しのままぶら下げているのって、師匠が作ったの?」

「そうだよ。鞘はルーベウムとの戦闘で焼け落ちちゃった」

「見せてもらっていい?」

「もちろん」

 俺の作った短剣をレジーナはまじまじと見つめる。


「武器製作歴が浅いから、そこまでじっくり見られると恥ずかしいのだけど」

「いやいや、大したもんだと思うよ」

「改善できそうな点とかあれば教えて欲しいんだけども」

「そだねー。師匠、この部分だけど……」


 レジーナは具体的な改善点を教えてくれた。


「流石はレジーナ。武器のエキスパートなだけはあるね」

「いやいや! それほどでもあるけどー」


 レジーナは嬉しそうに照れていた。

 そんなことをしていると、ゼノビアが立ち上がる。


「師匠。来客……いえ、アルティたちが来ました」

「誰が近づいて来ているのかわかるシステムなんだね。便利だなー」

「はい。今でこそ平和ですけど、昔は命を狙われることも多かったので」

「そうだったんだ。大変だね」

「はい。……ところでレジーナ。兜をかぶらなくていいのか?」

 ゼノビアは俺を抱えたままのレジーナを見て言った。


「ん? もういいだろう。弟子に採ることにしたし」


 弟子入りまで舐められないようにしていたのかもしれない。

 試練でレジーナと実際に戦った今なら、素顔を見ても舐めることはあるまい。


 そうこうしている間に、総長室の扉がノックされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る