第41話 総長室でのミーティング

 しばらく休んでいると、剣聖ゼノビアと小賢者ミルトが到着する。

 二人は、それぞれ大きな飛竜ワイバーンの背に乗っていた。

 ワイバーンは馬よりも速いので移動手段として最適だ。


 休んでいる俺たちの姿を見て、ゼノビアはほっとしたようだった。


「もう、終わったようだな」

「はい。かなり厳しい戦いでしたが」

「それはそうだろう。眷族だからな」


 ゼノビアはうんうんと頷く。

 ミルトはアルティから眷族のコアのかけらと灰を受け取り、調べながら言う。


「まさか、退治できるとはな。連絡を受けた時は肝が冷えたぞ」


 弟子たちは俺たちでは眷族退治はまだ難しいと判断していたのだろう。

 神獣であるフルフルと子ヤギの助けがなければ、足止めが精いっぱいだったかもしれない。


 ゼノビアは弟子であるアルティに手を触れながら、怪我がないか調べていく。


「うむ。怪我はないようだな」

「ウィルに治療してもらいました」

「そうか。それならば安心だ。おや? 剣も変わっているな」

「申し訳ありません。いただいた剣は、魔人との戦いで折れてしまいました」

「そうか、折れたか。魔人相手に折れたのならば致し方あるまい」


 ミルトがコアを鞄にしまったあと、固めておいてある襲撃者の死体も鞄に放り込んでいく。

 内容量を拡大した魔法の鞄らしい。


「恐らく身元は分かるまいが、一応調べねばな」


 そして、ミルトは俺たちに向けて言う。

「詳しい話は学院で聞こう。二人とも飛竜の背に乗るがよい」

「ありがとうございます。疲れていたので助かります」


 俺は子ヤギとフルフルと一緒にミルトの乗って来た飛竜の背に乗る。

 アルティはゼノビアの飛竜の背に乗った。


「お師さま。お願いがあります」

「ふむ? どうした?」

「助けを呼びに行くために今も走っているティーナとロゼッタを途中で拾ってください」

「うむ、わかった」


 空に飛びあがった後、ミルトが小声で尋ねてくる。


「ティーナとロゼッタは、どの時点で助けを呼びに行ったのだ?」

「ゼノビアさまに連絡する直前です」

「なるほど。獣の眷族を見たということか」

「そうなります」

「ティーナとロゼッタにも事情を説明した方が良いだろうな」

「それがいいと思います」


 途中で全力で走る汗だくのティーナとロゼッタを見つけて、ゼノビアの飛竜にのせる。

 二人は俺たちが無事なことに安堵していた。


 そして、俺たちは勇者の学院へと戻る。

 サリアとルンルンに会いたいが、今はまだ託児所での授業中だ。

 まっすぐにゼノビアの総長室へと向かう。

 アルティ、ティーナ、ロゼッタだけでなく、ミルト、フルフルと子ヤギも一緒だ。


 ティーナはゼノビアの弟子のアルティと一緒に、ゼノビアから毎朝指導を受けている。

 だから、総長室に入ってゼノビアと対面しても緊張していないようだ。

 だが、ロゼッタは緊張しているようだ。恐らく総長室にも初めて入ったのだろう。


 奥の長椅子に座ったミルトから俺たちは向かいの長椅子を勧められた。

 四人で座っても余裕のある大きな長椅子だ。

 右からロゼッタ、ティーナ、俺、アルティの順で座る。

 フルフルは俺の肩の上に乗ってくる。

 子ヤギは俺のひざの上に乗り、俺にお尻を向けて尻尾を可愛くフリフリ振っている。


 俺はとりあえず肩に乗っているフルフルを右横におろすと優しく撫でる。

 ぷにぷにで気持ちがいい。

 そうしてから子ヤギの背中をやさしく撫でた。


 その時、部屋の奥に行っていたゼノビアが人数分のお茶とお菓子を持って戻って来た。


「お師さま。私が淹れなければならないところを……」

 慌てた様子で立ち上がるアルティに、ゼノビアは笑顔で言う。


「気にするな。今はアルティも客だ」

 ゼノビアが全員にお茶とお菓子を配るのを見ながら、ミルトが俺たちを見回す。


「初めて会うものもいるな。自己紹介が必要だろう」


 総長であるゼノビアは入学式であいさつしたのでロゼッタも知っている。

 だが、ミルトはそうではない。ロゼッタはもちろん、ティーナも初対面だろう。


「俺はミルト。ミルト・エデル・ヴァリラスだ」

「大賢者のお弟子さまにお会いできるとは、光栄の至りです。わたくしは……」


 ロゼッタは驚いて固まったが、ティーナは驚きながらも自己紹介を始める。

 さすがは皇族。偉い人とのあいさつは慣れたものだ。

 ミルトはティーナをみて笑顔を浮かべた。


「ティーナ・ディア・イルマディ。そなたは我が兄弟子の弟子。当然知っている」

「恐縮です」

「ロゼッタのことも知っている。狩人神の寵愛を受けた優秀な狩人だ」

「……あたしのことをご存じなのですか?」

「もちろんだ」


 ロゼッタは心の底から感動しているようだった。

 お茶とお菓子を配り終わり、ミルトの横に座るとゼノビアは笑顔で言う。


「さて、経緯を説明してくれぬか? まずはロゼッタから見たことを細かく説明して欲しい」


 ゼノビアは、最初に最も教団に関する知識の薄いロゼッタに尋ねた。

 どのくらい情報を知ったのか調べるためだろう。


 ロゼッタはうなずくと、丁寧に学院を出たところから説明する。

 その部分はゼノビアとミルトにとっては必要ない説明だ。

 だが二人とも、そんな素振りをかけらも見せず、興味深そうにうんうんと聞いていた。


「そして、首を落とされた魔人が厄災の獣テイネブリス? とかいうのに変わったんです」

「ほう? 厄災の獣とはなんだ?」

「わかりません。あたしはウィルが言ったのを聞いただけなので」


 そういえば、驚きのあまり思わず口走ってしまった。

 あの中できちんと聞いて記憶していたとは、狩人神の寵愛を受けているだけのことはある。


「ふむ。それだけ知っているのならば、ある程度教える必要があるな。ミルトどう思う?」

「判断はゼノビアに任せる」

「そうか。子供たち。よく聞きなさい」


 ゼノビアは真剣な表情で俺たちを見た。

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