第39話 獣の眷族

 魔法の槍マジック・ランスを撃ち込んだというのに、ダメージを受けたような動きではない。


「あれでは大したダメージにもならないのか!」

 ――ガギイイイイン

 獣の眷族の突進を、俺は魔法障壁で受け止めた。

 ものすごい衝撃。障壁にひびが入る。


「メエエエエエ!」

 子ヤギが獣の眷族に渾身の体当たりをぶちかます。

 いつの間にか子ヤギは大きな姿に変わっていた。体高三メートルぐらいある。

 子ヤギは大きくなった体に魔力を漲らせ、高速でぶつかったのだ。


 獣の眷族は大きくはじき飛ばされた。


「ピギイイイイイイ!」

 その先にはフルフルが待ちかまえている。

 大きくなったフルフルが獣の眷族の体の一部を包みこむ。


「GIAAAAAAAAA!」

 獣の眷族がおぞましい悲鳴を上げた。

 フルフルが包み込んだ場所が金から黒へと変色して灰になる。


「GOOOOAAAA!」


 獣の眷族は力強く咆哮すると同時に全身から金色の煙を噴き出した。

 その煙にあたった瞬間、フルフルが弾きとばされる。


「ピギャアア」

 悲鳴を上げるフルフルを、獣の眷族は追撃しようとした。

 そこにアルティの剣が一閃。獣の眷族の両後ろ足をひざのところで切断する。

 切断面から赤い血と金色の煙が一気に吹き出た。


「GAAAAAAA!!」

 獣の眷族はアルティの方へと振り返りつつ口を開け、口から金色の魔力弾のようなものを放った。

 アルティは見事な身のこなしで、紙一重で躱していく。

 すでに獣の眷族の両後ろ足は再生を始めている。

 アルティの左腕に金色の魔力弾がかすった。


「つうっ」

 アルティは顔をゆがめる。血が出ているわけではないが黒く変色した。

 まともに食らえば即死。かわし損ねてかすっただけでも、時間経過で死に至る呪いだ。


「そういう小技は厄災の獣の奴と同じなんだな!」


 俺は魔法で作り出した水球ウォーターボールを獣の眷族に撃ちこむ。

 水球には土魔法で泥を混ぜ込んである。粘度の高い泥水の水球だ。

 高速で飛んで、獣の眷族の顔を覆う。


「GUAAAA」

 水球に顔を覆われながらも、獣の眷族は口から金色の魔力弾を連続で放つ。

 単なる水ならば簡単に蒸発しきっただろう。

 蒸発しなくとも、貫通はしたに違いない。


 だが、今獣の眷族の顔を覆っているのは俺が大量の魔力をぶち込んだ水球だ。

 金色の魔力弾をすべて吸収しきる。獣の眷族の魔力を、俺の魔力で相殺するのだ。


 相殺した分、水球の大きさはどんどん小さくなろうとする。

 だが、俺は小さくなった分、水球に魔力をつぎ込んでいくのでまったく減らない。


 焦ったのか、獣の眷族は熱風ヒート・ウィンドの魔法を口から吐く。

 それでも、水球が蒸発する端から俺が魔力を追加するので消えることはない。


 泥水によって視界をふさいだ。その上、口からの魔法という最大の攻撃手段も奪った。

 飛び掛かろうにも両後ろ足はアルティが切断済みだ。


 それでも、獣の眷族は俺目掛けて突進を開始した。

 目は見えずとも気配でわかるのだろう。


 両後ろ足が再生の途中だというのに、残りの四本の足を使って獣の眷族はかけた。

 後ろ足がないというのに速い。一瞬で俺の眼前に現れると、鋭い右前足の爪を振るってくる。

 俺は後ろに跳びはねて躱す。だが、獣の眷族は俺の引き足に遅れずについて来た。

 こうなると爪を躱しつづけるのは難しい。俺は爪を障壁で受け止めた。


 ――ガギイイイイン


 俺の障壁と爪がぶつかり、鈍い音が響く。

 獣の眷族は体重をかけてギリギリと爪に力を籠める。障壁に徐々にヒビが入っていった。

 俺と獣の眷族は、超至近距離で顔を突き合わせる格好だ。


「やはり、つえーな」

 そのとき、爪の圧力に負けて障壁が砕けた。すかさず張りなおす。

 張りなおした時には、獣の眷族の爪は俺の体に触れる寸前にまで迫っている。


 急いで障壁を張りなおしたせいで、水球への魔力供給が薄くなった。

 獣の眷族はそれを見逃してはくれない。


「GOOOOOOOAAAAA!」

 獣の眷族が咆哮しながら金色の魔力弾を口から放った。

 俺の水球を貫通し、爪を防ぐための障壁すら砕く。


 俺は自ら後方へ体を倒れることで何とか躱す。

 それでも右肩を金色の魔力弾がかすった。


「つうっ!」

 右肩に焼けるような激痛が走った。


 すかさず、獣の眷族は倒れた俺に馬乗りになろうとしてきた。

 再度張った障壁で獣の眷族の全身を押しとどめる。


 獣の眷族は「ガチンガチン」と牙を鳴らす。障壁を破られたら、牙の餌食だ。

 障壁と水球への魔力供給を同時に強化し、防御を固めるしかない。


「たああああああ!」

 俺にのしかかっている獣の眷族に対し、アルティが斬撃を加えていく。


「GAAAAAAAAAAAA」

 次々に前と中の四本の足と、ほぼ再生が終わっていた二本の後ろ足。

 加えて二本の尻尾を切断されて、獣の眷族は地面をのたうった。


「ウィル! 大丈夫ですか!」

 俺は跳び起きながら、

「大丈夫だ! 助かった」

「こいつはどうやったら死ぬんですか!?」


 切断面からは血と同時に金色の煙が噴き出し、再生を開始している。

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