第18話 決闘その2

 そして、俺は直径〇・二メートル足らずの水球ウォーターボールを二つ作った。

 俺の作った水球を見て、ダナンとイヴァンは笑う。


「せめて球を魔法で作るなら火にしろ!」

「そんな小さな水球をふよふよさせて何がしたいんだ! 水遊びならよそでやれよ!」

「どうするってこうするんだよ」


 俺はゆっくりと水球をダナンたちに向けて飛ばす。


「俺たちを舐めてるのか?」

「守護神が一柱のお前の魔法ならこんなものなんだろうな」

「さっき使った、小さな小さな火球の方がいいんじゃないか?」

 

 笑っている間に水球はどんどん近づいていく。

 目の前に来た水球をダナンは剣で斬り裂いた。

 当然だが、剣で斬ったところで、どうにもならない。


 イヴァンが詠唱をして火球を作り水球にぶつける。

 火球が当たった瞬間、「じゅっ」という音が鳴り、火は消えた。

 直径〇・二メートル足らずの水球を蒸発させるには、火力が圧倒的に不足している。

 二人はどんどん近づいて来る水球に少し慌て始めた。


 火球をどんどん作ってぶつけ始めた。

 詠唱速度が速くなり、それに伴い雑になる。

 徐々に水球の温度が上がっていくが、消えたりはしない。


「クソが!」

「気味の悪い魔法を使いやがって!」


 一般的な水球なのだが、気持ちが悪いらしい。

 普通と違うのはゆっくり飛ばしていることぐらいだ。


 ダナンとイヴァンがついに逃げだす。


「今までのお前らの行動の中では一番正解に近い。だが……」


 会場は広くない。

 少し水球の速度を上げるだけで、あっという間に追いつける。


「クソが!」


 隅に追い詰められたダナンが、再び剣で水球に斬りかかる。当然、斬れるわけがない。

 そのまま水球は近づき、ダナンの顔をすっぽりと覆った。


「ごぼごぼぼぼぼぼぼぼ」

「く、来るな……ごぼごぼぼぼぼぼぼ」


 ほぼ同時にイヴァンも水球に捕まる。

 呼吸ができなくなれば、人族は大きく活動を制限される。

 魔法の発動に詠唱を必要とする一般的な魔導師は特にそうだ。

 詠唱を必要しない熟練の魔導師でも、呼吸できなければ集中力も思考力も格段に落ちる。


「まあ、これで終わりか」


 ダナンもイヴァンも何もできまい。あとは気を失うのを待っているだけでいい。

 そう思ったのだがダナンの顔を覆う水球がどんどん小さくなっていく。


「ほう?」


 俺は少し感心した。

 ダナンは水をごくごくと飲んでいるのだ。それをみてイヴァンもごくごく飲み始める。

 二人ともあっという間に飲み干していく。お腹はタプタプに違いない。


「大したものだ」

 せっかく俺が褒めたのに、ダナンもイヴァンも激怒している。


「もう許さねえからな!」

「楽に死ねると思うな!」


 だが、その威勢も一瞬で消え失せる。

 ダナンもイヴァンも、顔が真っ青になり、冷や汗をだらだらと流しはじめた。


「てめえ、毒を、毒を盛りやがったな!」「卑怯な!」

「俺ほど正々堂々戦っている奴はいない。卑怯者呼ばわりするのはやめてもらおうか」

「毒なんか使いやがって!」

「毒虫を使っていたやつが何を言う。それにそもそも俺は毒を使っていない」

「じゃあ、なんで……」「……どんな魔法を使ったんだ」


 ダナンもイヴァンもお腹を押さえている。腹痛に襲われているのだ。


「そもそもだ。体内に魔法の効果を及ぼすのは難しい。それは治癒魔術の領域だ」


 体内に魔法を及ぼせるなら、心臓か脳の血管をどうにかすれば人は簡単に死ぬ。

 ほとんどの対魔獣戦や対人戦において、血管をどうにかする以外の攻撃魔法は必要なくなる。


 治癒魔術を行使できるのは、被術者が抵抗せず受け入れるからだ。

 それでも治癒魔術は非常に難度が高い。


「お前らは俺がすでに魔法で操っている、つまり俺の支配下にある水を自ら受け入れたんだ」

「それが、それがどうした!」

「すでに支配下にある水を、体内に移動した後も支配し続けるのはそう難しくはない」


 本当はコツをつかむのが、それなりに難しい。

 だが、みっちり三か月も練習すれば、水魔法の使い手なら使えるようになるだろう。


「魔導師が操っている物体をうかつに体内に入れるな」

「くそがぁあ」

「冷たい水が体内をぐるぐる動きまわるんだ。体調も悪くなる。当たり前だ」


 俺はダナンたちが飲んだ水をそのまま支配しつづけている。

 そして胃袋から、小腸、大腸へと流し込んだ。

 そんなことをすれば、当然の帰結としてお腹をひどく下す。


「どうする? 降参してトイレに駆け込むか?」

「ふざけるな! 俺が一神のクソガキにまけるわけねーだろうが!」「死ね!」


 ダナンたちは魔法を詠唱したが発動しない。

 あまりにお腹が痛くて集中できないのだろう。

 基礎的な反復練習をさぼるから、集中できなくても発動できるようにならないのだ。


「クソが!」

 体調悪そうなまま、ダナンとイヴァンは剣を抜く。

 そして、俺に向かって襲い掛かった。だが俺に駆け寄る途中で


「あああああああああああ」「ああああああああ」


 ダナンとイヴァンは、ほぼ同時に地面をひどく汚した。

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