第3話 想い

「カナカナカナ」


その声は、何とも寂しげだ。


ヒグラシ

夏の終わりから鳴きはじめる。


夏の精霊が、別れを悲しんでいるのかもしれない。

神様も、粋なことをする。


秋がくると、年末まではあっいう間だ。

あわただしくなり、気がつけば歳が明ける。

毎年、その繰り返し・・・


人の一生も、とても短い。

その、短い間に多くの出会いと、別れを繰り返す。


しかし、自分の心に強く残るのは、僅か・・・

よっぽど愛していたか、憎んでいたかの、両極端。


「去る者は日々に疎し」なのだ。


両親同士が、とても仲が良く、定期的に連絡のやりとりをしていれば。

嫌でも記憶から、消える事はない。


時代は周る。

喜びと悲しみを繰り返す。

別れても、生きていればいつかまた、巡りあう。


そう、生きてさえいれば・・・


「久しぶりに、声が聞きたくなった」

「彼は、声変わりしてるかな」


遠く離れた地で、ふたりの想いが重なる。


互いの電話番号は知っている。

両親同士は、かけあいをしていたが、その子は出る事も、話す事もなかった。


「この国を愛しているから」と、日本に残ったデザイナー。

「同調圧力は嫌だから」と、異国へと移住したデザイナー・


でも、やはり繋がっている。

それは、無意識のうちに、子供へと受け継がれる。


そして、どちらかともなく、受話器を取る。


コロナの影響で、会う事は先になった。

でも、せめて声だけでも・・・

元気である事を確認したい。


そして、いつの日か。


電話をかけようとした時、ベルが鳴り、受話器を取る。


『久しぶり。元気だった?』


声だけの再会は、会話と言う形で長く続いた。

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ヒグラシの想い出 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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