第3話 朝3

どこをどう進んだのかはわからないが、元いた場所に、ぼくとハインリヒさんは戻ってきた。


そして、ハインリヒさんは、近くの茂みに近寄ると、しゃがんで何かを探し始める。


そしてぼくの方を向いたときには、左手にずた袋を提げていた。


焚き火の燃えかすの前に座ると、ハインリヒさんはやっと僕のほうを見て、言った。


「こっちへ来い。小僧。腹が減っては怒る気にもなれん。」


「はい!」


ぼくはそう返事をすると、ハインリヒさんの傍に駆け寄った。


ずた袋の中身は、黒パンの入った袋とぼくとハインリヒさんの水筒がそれぞれ一つずつある。


冬の間は干し肉も入っていたけれど、空気が暖かくなってしまうと腐ってしまうから入れないのだそうだ。


ハインリヒさんは、黒パンの袋の中から、薄く切られた二枚のうち一つをぼくに配った。


「黒パンは、出来立ての内は柔らかいのだが、時間が経つと固くなって、終いにはナイフの刃も通らなくなる。だから柔らかい内に切っておくのだ。」

 

ハインリヒさんは、食事のときや寝る前になるとよく喋る。


食べることは、僕も好きだけれど、ハインリヒさんのそれには及ばない。


黒パンのどこか酸っぱい味に慣れてきたぼくとは違って、ハインリヒさんは食べることを純粋に喜んでいるように食べるのだ。


獣の姿に、そのありようは不釣合いに見えた。


「何か俺の顔についているか。」


「いえ、何も。」

 

じろじろ見られていることにハインリヒさんは気付いていたらしい。


最後のパンの欠片を口に放り込むと、いきなりそう聞いてくる。


ぼくは飲んでいた水を噴き出しそうになって、こらえて、飲み下すのに苦労した。


まさか気付かれないだろう、そう思わせるほど、ハインリヒさんは物を食べることを愛する人なのだ。


もしかしたらその情熱は執念に似ているのかもしれない。


けれど、僕はハインリヒさんからその手の話、過去に潜る話を聞いたことはない。まあ、話してくれる仲になったら、そのときが来るのだろう。

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