足が世界を救う

ちびまるフォイ

ひとりでシャンシャン

一歩踏み出したとき、足の裏から音がした。


シャン。


「……音がした?」


シャンシャン。


右足、左足と足踏みするたびに音がする。

小さい子供がプープーなる靴を履いて歩いているように音がなっている。


靴の裏を確かめても中を確かめても音が鳴るようなものはなにもない。


「きっと疲れてるんだろうな。無視だ、無視」


イヤホンを耳に入れて音楽を再生した。

これから旅行の予定もあることだし、余計なことに気を使いたくない。


天気を確かめようと空を見上げたとき、

空から巨大な丸いマークが降っていた。


「ど、どんだけ俺は疲れているんだよ……」


あくまでも幻聴と夏の蜃気楼が見せたまぼろしだと言い聞かせたが、

空から落ちてきた丸いマークが地面に着地したとたん、その場所が丸くえぐられた。


「おいおい!? 嘘だろ!?」


追い打ちをかけるように続けざまに丸いマークが空から落ちてくる。

あんなのに当たったら命はない。


遠くへ逃げようと足を踏み出した。

ちょうど遠くでは丸いマークが地面に落ちる瞬間だった。


シャンッ。


丸いマークの着地と、自分の足の着地が揃ったとき

地面はえぐられることなく紙吹雪とともに丸いマークは消えた。


「え……?」


ふたたび丸いマークが落ちてくる。

地面に触れるタイミングに合わせて足の裏をドンと地面につける。


シャンッ。


足の裏から音がした。

しかし、今度は自分でもタイミングが遅いのに気づいた。


空から落ちてくる丸はその形状に合わせて地面をえぐった。

コンクリートが丸く削られ、露出した水道管が水を噴き上げている。


「ちゃんとタイミング合わせないと消えてくれないのかよ!」


地面に落ちるのを見てから、足を動かそうとするともう遅い。

足を上げて下ろして着地するまでの時間のロスでタイミングを逃してしまう。


「ちょっと早くに判断すればいいんだろ! くそ!」


丸いマークは休むことなく空から落ちてくる。

地面に着地したタイミングで足から音が出せるように足を先出しする。


はたからみればこっけいなタップダンスをしているようだがこっちは必死だ。


「うそだろ……なんだあれ……!?」


いくつもの地面を犠牲にしたがやっとなれてきたタイミングで、

今度は帯状の長い楕円形が空から地面に迫ってくる。


縦に長いためのがしてしまえば地球のマントルが削り取られかねない。


「なんで地球の命運が俺にかけられてるんだよぉ!!」


細長いマークが地表に着地したタイミングで足をつける。

マークは先頭部分だけが紙吹雪となる。


足踏みを連打するために何度もももあげを繰り返す。


「うおおおおお!! 消えろぉぉぉ!!」


地面に吸い込まれるようにして帯状のマークは消えていった。

長いマークは連打ならぬ連踏みが必要らしい。


「ふふふ、わかってきたぞ。もう大丈夫だ!」


なんとなくコツを掴んできた。


マークが落ちてくるのは不規則ではない。

一定のタイミングで落ちてくることが感覚でわかった。


ダンスを踊るようにして空から落ちてくるマークを消していく。


「はい! 次! おりゃ! まだまだ!」


だんだん踊るのが楽しくなってくる。

空から落ちてくるマークが遅すぎて待ち遠しいくらい。


「さあ、次はなんだ!」


次のマークの頻度を確かめるために空を見上げたとき、

大気圏の外から見たこともないほど大きな丸いマークが見えた。


「なんだよあれ……まるで隕石じゃないか……」


普通ならとても見ることができない距離なのに

そのあまりの巨大さから肉眼でも見えてしまうほど。


あんなのが地面をえぐったらいったいなにが起きるんだ。

少なくともこの国の土地はえぐり消えて海に沈むだろう。


近づくにつれ輪郭はますますはっきりし、その巨大さが際立っていく。


「あんなのどうやって消せばいいんだよ!?」


通常サイズのマークは足踏み。長いマークは連続足踏み。

それじゃあのバカでかいマークはいったい。


「みんなでタイミング合わせなくちゃいけないのか……?」


きっと大人数による同タイミングでの足踏みが必要になる。

けれどこの事情を説明している時間もないし、

まして人が多くなるほどにタイミングズレが起きる危険もある。


「もうダメだ! 消せるわけがない!!」


成層圏から降ってくる巨大なマークを消すことはあきらめた。

今はえぐられてもなお生き残れるシェルターを探したが、すでに遅かった。


「この核シェルターは満員だ! 出てくれ!」


「あと一人くらい入れるでしょう!?」


「入れても食料が足りないんだよ!

 あの隕石が落ちたあとに生き延びなくちゃいけないんだ!」


「それでも人間ですか!」

「うるさい!!」


突き飛ばされた拍子にイヤホンが取れてスマホが壊れた。

空から迫ってくる恐怖の大王を恐れ我先にとシェルターへ誰もがかけこんだ。


シェルターに入れなかった人たちは死を確信し、ただ空を見上げていた。


「ああ、もうダメだ……!」


俺はもう足踏みすることもできなくてただうずくまっていた。

迫ってくるマークを見るのが怖い。死を意識させられる。


小さくなってぶるぶる震えていたがいつになっても地球は壊れなかった。


「……あ、あれ?」


目を開けてみても世界はもとものままだった。

どこにもえぐられていない。


「助かった……助かったんだーー!」


理由はわからないがバカでかい丸マークが地表を削る心配はなくなった。

それどころか小さな丸いマークも落ちてこない。

すべては悪い夢だったんだ。




それから数日後、俺は友達と念願の旅行へと行くことにした。

前に起きた地球崩壊の危機を話すことはない。


「いまだに飛行機が離陸するときはドキドキするわ」

「お前何度目だよ」


機内で友達と話しながら窓の外を眺めていた。

がくんと機体が左右に揺れる。


『乗客のみなさんご安心ください。

 雲が厚く待機が非常に不安定で機体が揺れました。

 ですが、航路を変更し安全な場所を飛行するので大丈夫です』


安心させるように落ち着いた機長のアナウンスが機内に響く。

一瞬だけヒヤっとしたが落ち着いた。


機体はうず高い積乱雲を避けて、厚い雲の中を突っ切っていく。

深い雲の層を抜けてひらけた雲の上に出た。


「まま、あれなにーー?」


小さい子供が窓の外を指差した。

飛行機の進行方向にあるものに目を疑った。


「あのマークは……っ!」


雲に隠れて見えていなかったバカでかいマークが空中で静止していた。


まもなく、当機は避けられるはずもないそのマークへと突っ込んでいった。

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