掌編小説・『ミツバチこわい』
夢美瑠瑠
掌編小説・『ミツバチこわい』
掌編小説『ミツバチこわい』
地球を究極的に管理しているシステムというのが、すでに構築されていて、なんだ、陰謀論か、と思われるかもしれないが、そうした単純な話ではなく、現実には異能の地球外生物や、全ての国家指導者、巨大企業やコングロマリット、天才科学者、
そうした多種様々な「パワー」が複雑に絡み合って、地球を裏で糾合する、精確無比で神のごとき「知性」を具えた統治者組織を構成していて、その中央ネットワークシステムがブレーンでもあり、委託された意思の代表執行者として、全権を代理実行する形になっていた。
エシュロンというのは有名になったが、あれは氷山の一角で、情報だけではなく、もっとあらゆる角度から地球と人類のすべてを把握して支配する、そうした壮大なゲシュタルトがバベルの塔のように営々と日々更なる高みを目指して進化しつつ刷新されていたのだ。
星全体を管理するシステムというと古いSF の、マザーコンピューターというイメージだが、もっと現実にはカジュアルなシステムになっていて、無数のスーパーコンピューターネットワークの他に、あらゆる天才的な頭脳や、超能力を持つE.Tのポテンシャルを縦横に利用できて、精緻な人工頭脳由来の絶え間なく生じる無数の「問い」と「答え」、或いはアカシックレコードのシミュレーション、なんなら記録に残った資料から再構成された、ダヴィンチやゲーテの頭脳も参照できる、そうした極めてインテリジェントなフレキシブルな、システムだった。
当事者たちにももう全体像がよく把握できないほど「賢く」なっていて、様々な地球上に生起する事象を、どこまで正確に把握していて、未来をもどこまで見通しているのか、よく分からないし、人類を滅ぼしたほうが良いと判断すれば滅ぼしかねない、そういう底知れない恐ろしささえ秘めている感じだった。
このシステムは仮に「α(アルファ)」と、呼ばれていた。
・・・ ・・・ ・・・
その管理システムがある「危険」を察知した。
今の権力の管理体制を揺るがす、ある「危険分子」と、その意味についてひとつのアルファベットの配列が示された。それはある人物のDNA配列で、この人物は潜在的な「キリスト」なのだった。
このコードが、完全に発現すれば、ネオキリストとなりうる。
キリスト、またはジャンヌダルクのごとくに、民衆を導いて世界を変える革命を起こしうる、今の世界での唯一のDNA.。そうして現実にその人物は誕生している。
全ての人類と動植物のDNAの関連性を複雑な函数として厖大な計算をなした結果、「α」はこの人物が今の権力の重大な脅威になりうるキーパーソン、だと判断したのだ。
そうして、今はその人物がアルコール依存症で、病苦にあえいでいることも割り出した。
そうしてそのキリスト的な特質が現在では寧ろ体制の堅持のために役立ってすらいる。そういうこともすぐに分かった。ややこしい存在なので殺せば簡単なのだが、そういう影響力の大きい人物を迂闊に殺したとして、そのあとの展開というのはシミュレートしても予測不能ということになっていた。すぐに次々にいろいろな事実が割り出されていったが、なかでも危険なのは、「ミツバチ」との関連だった。
ミツバチ」の作る特殊な栄養、ローヤルゼリーやプロポリス、そうしたものがこの人物の口に持続的に入った場合に、眠っているDNAの資質、様々な特異な形質が発現していく契機になるという惧れがあることが判明した。どうやら今もそうしたミツバチ関連の食物も摂取しているらしいが、純度の低い製品で、あまり効能はないらしい。ミツバチ関連のそうした有機物に接触できないように周辺を封鎖する、というやり方もあったが、それだと別の秘密組織が暗躍したりして、どういう経路でそうした物質がその人物の口に入るかもわからない、そういう恐れがあった。
「α」内部で慎重に審議を繰り返して出た結論は、最も安全なのはミツバチの存在そのものを闇に葬ってしまうことである、ということだった。「α」は強権を発動して、脅威の芽を事前に摘むべく、「あらゆるミツバチの巣を崩壊させるべし!」という命令を発布した。
すぐに対策が研究されて、ミツバチのコロニー崩壊、CCDを引き起こす電波、というものが発明されて、地球全体に流されていくことになった・・・
ミツバチの巣は次々にCCDを起こして、やがて地球上のミツバチそのものが完全に絶滅した。
ミツバチの霊薬による天啓のような救いを受けることもかなわず、アル中の隠れキリストは結局ハクチ扱いされつつ無念な生涯を閉じ、その死後も、残虐な搾取を繰り返す体制がいよいよ盤石になっていったのだった。
<終>
掌編小説・『ミツバチこわい』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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