最終話
翌日、テレビで大々的に取り上げられたのは日本中を大混乱させた黒幕である俺がビルの屋上から落ちて死んだというニュースだった。報道によると、俺は自分が起こした事件を後悔し、SNS上での誹謗中傷に耐えきれず、自ら命を絶ったという形で報じられた。
そして、もう一つのビッグニュースとして報じられたのは、昨日のサイトで映された人物は高田大臣ではなく人形だったということ。高田大臣は配信終了後に居場所を突き止めた警察の手で助け出され、解放後にこの大事件を知り、ネット上での誹謗中傷を無くす為に全力を尽くす決意を新たにするという事と共に、コメントで『殺せ』など殺害を後押しする発言をした人間全員を殺人教唆の罪で訴えるという趣旨の内容だった。
今回の事を重く受け止めた政府は、『誹謗中傷を止める為には匿名を無くすことである程度は防げる』という実証を武器に国民のネット上での投稿を監視し、政府が問題があると認識した投稿や主張などをした人物に対する個人情報を簡単に入手でき、罰則を課せられるように法整備を進めた。
当然、国民の反発があったが、権力者には『誹謗中傷から国民を守り、これ以上、望まない死を増やす事はしない』という大義名分があり、実際に安全圏ではないと認識した国民は誹謗中傷を控える事実の2つを掲げて強行的に国会で賛成多数で可決させ、最短日数で法律を施行させた。
法律が施行された日、早速、政府によってネット上での危険発言を関知し、個人情報の開示請求が行われ開示された情報に政府も国民も誰もが驚いた。
その人物は、この法整備を進めるキッカケとなる大事件を起こした俺だったから。
そして、問題視された投稿は、俺が大事件の配信終了後に交わした高田大臣との会話とその会話の最期に追加された俺の一言だった。
「この音声を聞かれているという事は、既に俺は高田大臣に消された後だろう。あの事件の真相を語るにはあまりにも時間が短すぎる為、全てをお伝え出来ない。だから、要点だけを語ろうと思う。あの事件は現政府に省庁のトップたちと共に練り上げた計画であり、目的はネット上での監視を政府が簡単に出来るようにするためのトラップだったという事。
超監視社会になり非常に多くの国民が暮らし辛さを感じていることだろう。ようこそ窮屈な世界へ。この状態を引き起こしたのは、匿名の仮面に被り、平気で人を傷つける事に麻痺した人間たちだ。もしも、匿名であっても他人への思いやりや優しさを持った人間が多ければ今もネットは自由に表現できる場であっただろう。
しかし、再三の注意喚起があったにも関わらず、私たち国民は悲惨な事件が起きても何も反省せず、自分のストレスを弱い立場にいる人間にぶつけ続けた。そのツケを国民全員が払う時が来たに過ぎない。
では俺はこの悲惨な状況を地獄から楽しんで見守り続ける事にします。さようなら」
卑怯者 乃木希生 @munetsu
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