花と夜

作者 こむらさき

70

24人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

 『美しい髪を持つ一族』と呼ばれる妖精たちの社会で、ひとり変わった髪色に生まれてきた『夜』と、一族の中でも東別に美しい髪を持つ『花』の物語。
 ファンタジーもファンタジー、きっとファンタジー以外ではまず書き表しきれないであろうお話です。いろいろと感じたことや注目すべき点はあるのですけれど、でもそのすべてが最終的に「あっすごい、きれい……」に収斂されてしまうようなところがあって、つまりある意味ではビジュアルに全リソースを注ぎ込んだお話であると、少なくとも主観的な読書体験としてはそう言えると思います。画がすごい。脳内に展開される映像のパワー。
 とっても綺麗で幻想的で、うっとりするような耽美(でもあんまり暗かったり重かったりはしない明るい耽美)の世界。ただ、映画や漫画ならまだしも本作は小説作品なわけで、つまり物理的な見た目はあくまで『ただ文字が並んでいるだけ』のもの、それをしてこれだけ絢爛な世界を描き出してみせるのですから、まったく並大抵のことではありません。どうなってるんだろう? おそらくはひとつひとつ積み上げられた細かな設定の力、コツコツ積み上げられる世界の土台固めの威力ではないかと思います。
 例えば『花招き月』であったり『鷲獅子(グリフォン)』であったり、これらの「私たちの暮らす現代には存在しない言葉/名称/言い回し」の醸す効果。ファンタジー世界を描く手法としてはそこまで珍しいものではないのかもしれませんが、でも珍しくないからといってそう簡単にできるものでもなく、なにより本作の場合はそれらがすべて効果的に機能している印象。
 お話を通じて描き出したいもののイメージが明確で、すべてがしっかりそちらを向いているのでブレがない。ちゃんとお話に彩りを与えてくれるのに、くどかったり邪魔するようなところがない、というような。彼ら一族の世界のありようをしっかり描きながら、でも読者の… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

※このレビューは「ファンタジー」について書いてますけど、書いてる人は「ファンタジー」といえばトールキンとハリポタとナルニアくらいしかイメージできないくらいに普段小説を読まない人なのですごく的外れなことを言う可能性があります。


僕らが「ファンタジー」を書こう!と思ったとき、実際に書きはじめたり、完成させることができるかどうかはともかく、最初に考えるのって設定とストーリーだと思うんです。世界観考えるの楽しいですしね。世界観だけめっちゃ詳細に作り込んで肝心の本文は1文字たりとも書かないままラノベ作家の夢を諦めたオタクはいっぱいいると思います(僕もです)。

ただですね、設定とストーリーの面白さで魅せるっていうのは、必ずしも小説の作り方ではないんですね。少なくとも設定とストーリー展開“だけ”が小説の魅力ではない。この辺、ラノベとかロールプレイングゲームが「物語」の原体験であるような世代に特有の問題だと僕は思っていて、僕もそうですが小説を読んだり映画を観たりするときに、どうしても設定とストーリー展開をまず気にしてしまうし、自分が創作をするときにもそこから考える。それ自体は別に良いことでも悪いことでもないんですけど、「小説」という形式の最大武器って、実は設定でもストーリー展開でもなくて(その2つが最大の武器になるのはロールプレイングゲームです)、「文章」なんですよね。当たり前なんですけど。

ところが、文章の美しさを追究する作品を書こうとすると、「ファンタジー」という世界観である必要性ってあまりないんですよね。むしろ、日常のさりげない一コマを磨き上げられた表現で意味付けするような作品こそ、文章の底力を感じさせるものだし、美しい世界を美しい言葉で表現するのは、簡単だからこそ難しかったりするんだと思うんですよ。

で、この作品なんですが、まずもう書き出しの一文が本当に素敵ですよね。ぐ… 続きを読む