第15話 僕じゃない『僕がいる』


 夕方、母が帰宅する前に香里は退散した。


「私が作ったって言わなくていいからね!」という、意とは反対のことを口にしながら。

 アピールが下手くそ過ぎるが、そこが香里のいいところだろう。シチューは絶妙なまろやかさと甘みがマッチして舌でとろけて、最高に美味しかった。



 ベッドに寝転ぶと眠気が襲ってきて、次に意識を取り戻したのは午前二時だった。


 丑三つ時、一日の中で最もヤバイ時間である。


 母さん、なぜあなたは僕を起こしてくれなかったのか……。

 風呂は二時半を過ぎてから入ることにして、暇を持て余した僕は机の中から新しいノートを取り出して一ページ目を広げた。


「超常現象……僕のモテ期のお話」


 世界は今、怪奇現象に満ちている。

 意味がわからない。

 とにかく僕は、この超常現象を解明しなければならない。


 それが僕に与えられた使命、神様は僕にとてつもない試練を与えたのだ!


 うん、やはり意味がわからない。

 かっこいい言葉を探してるんだけど、寝起きで頭がうまく回らない。

 先日書いたメモを見つめ、ペンを手に取った。


 真新しいノートの一ページ目に書き込む、僕の行動と僕じゃない『僕』の行動。


– – – – –

1日目

  僕

   香里、美波先輩とショッピングモールで遊ぶ。

   帰ってすぐ寝た


 『僕じゃない僕』

   小雪と相合い傘、商店街から。

   宿題やった


2日目

  僕

   悠花と一緒に登校。

   小雪と二人で図書委員がんばった。

   すぐ帰った。


 『僕じゃない僕』

   香里とパフェ食べた。

   ショッピングモールのパン屋。


ーーーーーーーーーーーーーー



 あれ? なんだか小学生の日記みたいだぞ? 

 まぁ、いいか。

 満足した僕はノートを閉じて表紙を見つめた。


「タイトル……」


 そう、タイトルをつけなくてはならない。

 この物語、超常現象を体験する僕の話を。


 天井を見上げるとやはり知っている天井で。

 僕じゃない『僕』はこの天井を見上げることがあるのか、それなら彼の目にはこの天井はどう映るだろう。などと考えた。


 僕だけど僕じゃない人。いや、僕と同じ『僕』


 考え始めたらわけがわからなくなって、ペンを強く握りしめて一思いに書き込んだ。

 ノートの表紙にでかでかと、下手くそな僕の文字。タイトルの下に、小さく副題を記す。



 そうこれは、

 僕と『僕』が超常世界の中でもがく成長物語。


 どうか最後まで見守っていて欲しい。



 諦めないこと、


 完走することの大切さを学んだ、



 僕のモテ期の話を。


* * * * * * * *



『僕がいる』


 –モテ期における超常世界の考察–

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