第13話 僕じゃない『僕』
午前中に図書委員の仕事を切り上げた僕は校門のところで小雪に別れを告げ、颯爽と家へと駆け出した。
おかしい……
小雪はおかしいのかもしれない。
僕と相合い傘をした?
雨が降った?
「僕じゃない……小雪は、いやっ、この街はおかしいのかもしれないっ!」
中学二年生特有の病気を発生させながら、僕は自宅の玄関を開けた。
「母さん、超常現象だっ!」
リビングに向かって叫ぶが返事はなく、急いで靴を脱いで廊下を走る。
「聞いて、母さん! 僕じゃないやつが同じ図書委員の子と相合い傘してたんだ!」
ソファに座ってテレビを見ていた母が、呆れた顔で僕を見上げる。
「はいはい、よかったわね。相合い傘できて」
「違うっ! 僕じゃないんだ! 僕にそっくりの誰かが、小雪に声をかけて相合い傘をっ!」
「なに? あんたにそっくりの誰か?」
「そうっ! 僕に似たやつが……」
「ドッペルゲンガーみたいね」
母が指差す先を見ると、テレビでちょうどそれを題材にしたドラマをやっていた。
自分そっくりの人間がいて、偽物が我が物顔で主人公として振る舞う。周りの人間は本物と偽物の区別がつかなくて、やがて偽物は本物になり変わり一ヶ月後、山中に身元のわからない変死体が……
「ぴぎゃんっ!」
クッションを抱きしめて悲鳴を上げると、「うるさいわねぇ」と母がため息をついた。
つい見入ってしまった、僕はホラーが苦手だった。
「で、あんたのそっくりさん? こんな感じであんたになり変わって相合い傘したの?」
「ち、違います! 僕のそっくりさんなんかいない、一人っ子です!」
「あらそう、それはよかった」
興味を失ったかのように、ソファから立ち上がる母。僕はクッションを抱えたまま、その背中を見送った。
うん、そうだ。勘違いだ。
小雪は不思議ちゃんだもんね、ちょっとおかしくなってるんだよ。だってそんなの、この街に僕以外の『僕』がいるなんて、これなんてSF? ファンタジー?
今日は一人でトイレに行けないかもしれない。
「母さん、トイレ」
「はぁ? なに言ってんの、一人で行ってきなさい」
軽くあしらわれた。僕があと十歳若かったら連れてってもらえたのに……十三歳という年齢を呪って、一人でトイレに向かった。
いや、まって、呪ってない、そんな言葉使っちゃダメ!
とにかく僕はトイレにいった。
その夜、眠れなかった僕は、机の上にあった適当な紙に自分の行動を書き記した。
僕と、僕じゃない僕の昨日の行動。
僕の行動
香里が家に来てショッピングモール連れていかれた。
ゲーセンで美波先輩と会った。
パン屋でパフェ食べた。
帰って寝た。
『僕じゃない僕』の行動
商店街で小雪と会った。
相合い傘した。
宿題やった。←さっきわかった。明日やろうと思って机に置いてたのに終わってた。
……え? ありがとう。
宿題やってくれたんじゃん。
いいやつじゃね? そして綺麗に整理されている鞄の中。奥底にぐちゃぐちゃにつぶれていたプリントが、綺麗に机の上に並べられている。
……え? いいやつじゃね?
夜更かしして頭がおかしくなっていたのかもしれない。
妙にすっきりした気分で僕はプリントを引き出しに片付け、ベッドに寝転んだ。
もしかしたら神様は、僕に試練を与えているのかもしれない。
モテ期に翻弄される僕をみかねて、女の子たちが寂しくないようにもう一人の僕を用意してモテ期を凌げるように……。
うん、すっごい余計なお世話だけどまぁ、もう一人の僕は紳士らしいのでよしとしよう。
「ノープロブレム」
いい言葉だと思った。
英語苦手だから、意味はよくわからないけど。
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