第4話 僕を好きなクラスメイト2

 はっと気が付くと、スクリーンにエンドロールが映し出されていた。


「うっわ、寝てた」


 心なしか湿っぽくなっている口元を手のひらで拭って、椅子に座り直す。

 寝てた、普通に。

 開始五分経たないうちに「あ、無理」と思って目を閉じて、そこからたぶん、普通に寝てた。

 僕ってホラー苦手だったんだ……。

 ため息を飲み込んで横を見ると、香里がハンカチで口元を押さえていた。目には涙、普段の学校生活からは想像できない大号泣。


「……えっ、そんなに怖かった?」


 泣くほど怖い映画だったのか? 見てないからわからないけどっ!

 うろたえる僕に、香里がキャラメル味のポップコーンを突き出す。劇場に入る前に購入したものだ。


 映画といえばポップコーンよね! わたし、キャラメル味が好きなの。それでいいわよね!


 と、有無を言わさず香里がキャラメル味を購入した。

 僕のお金じゃないし別にいいけど。

 寝てたから一口も食べてないし。


「ごめんね」


 ポップコーンを手放した香里が言った。盛り盛りだったポップコーンは残り二割に減っていた。どう見ても細身の、華奢な体型の香里の胃袋に吸い込まれていったのだ。


「あんた、ポップコーン食べてないでしょ?」

「…………え? あぁ、はい」

「味だって本当は塩味がよかったんでしょ?」

「……ん? え?」

「わたしが勝手に注文したから、わたしに合わせてキャラメル味食べてくれたのよね?」

「いや、僕食べてない……」

「あんた、優しすぎよ。だからわたし、あんたのこと好きなの」

「…………ん?」

「わたし、あんたのことが、好きだから」


 二回同じことを言われた、大事なことらしい。


 香里が、僕を好き……え? 知ってるよ? バレバレだしね、ツンデレ通り越してツン九十パーセントでトゲトゲしてるけど、僕を好きなことはわかってるよ?

 そうじゃなくて……


「あっ、わたしこんな場所で……告白しちゃった」


 そう、これは告白だ。

 付き合ってください的な、そういう意味の……そういうことだよね?


「ごめん……出ようっ!」


 ポップコーンを奪い取り、香里が席を立った。

 茫然と香里の背中を見送っていた僕だが、彼女が振り返ったことで慌てて姿勢を正す。


「なにボサッとしてんのよ! さっさと出ないと迷惑でしょ! 行くわよ!」


 捨て台詞のように吐いたあと、香里はずんずんと出口に向かって歩いて行った。

 慌ててあとを追うがなかなか追いつけなくて、劇場を出た後で「おそいっ!」と頬を叩かれた。


 さっきの告白はなんだったのか。

 僕のことが好きなら、もう少し優しくしてほしい。

 もしかしてさっきの告白、夢だった?


「ゆっくりでいいから、考えておいてね。告白の返事」


 デレの部分を表に出して、香里が言った。



* * * * *



 超展開についていけないまま一緒にパスタを食べて。罵詈雑言とたわいない会話(比率90:10)、を繰り返し、香里のショッピングに付き合いまた怒られて、日が暮れる前には解散した。

 悠花の部屋を見たが、カーテンの位置は朝から変わっていなかった。一日中家にいたのか、誰かと出掛けたのか……きっと女友達だ。

 悠花に男なんてありえない。

 だって僕はモテ期だからね! 悠花だってタイミングが合えばきっと、僕に告白を……。


「……返事、どうしよう」


 自室に戻り、一目散にベットにダイブする。


 告白……告白!


 嬉しい、とても嬉しい! だけどこの心のモヤモヤは何だろう?

 付き合っちゃえばいい? そんな簡単なものじゃない。だって僕には悠花がいるし、まだ紹介してないけど他にも二人それっぽい子がいる。


 そうだ、僕はモテ期を満喫したいんだ!


 告白の返事……どうしよう。

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