第429話 リベンジなるか?

「あームカつく! なんだよあいつら、ちっともまともに勝負する気ねえじゃねえかよ」


 執拗なまでにカット打ちを繰り返す大阪西蔭打線に、怒りをあらわにする比嘉。


「まあまあ落ち着くたい。あの戦い方は比嘉の球をまともに打てないって白状しているようなものたい。ばってん、あいつらは比嘉との勝負から逃げた負け犬たい。そんな犬相手に本気になって怒るのは馬鹿らしいたいよ」


 そう比嘉をなだめながらも、カット打ちに対する対抗策を打ち出せず頭を抱える西郷。


(俺の悪い予感が当たってしまったか。まさかあの王者大阪西蔭がこんな手を使ってくるとはな。仕方がない。この試合、比嘉が投げられるのはせいぜいあと2回か3回までか。残りは川合と吉田に何とか頑張ってもらうしかなさそうだな)


 このように鈴井監督は、すでに比嘉はこの試合長くは投げられないと見切りをつけ始めていた。


 そんな中迎えた1回裏。船町北の1番バッター星は、1年前の練習試合で万場弟に為す術もなく三振に抑えられたリベンジを果たしてやると燃えていた。


(あれだけ仮想万場兄弟を意識したピッチングマシーン相手に練習してきたんだ。絶対に打って、1年前のリベンジを果たしてやるぞ)


 そんな星に対して、先発のマウンドに上がった万場兄弟の弟で左ピッチャーの浩二が第1球目を投げ始めた。


(この角度、練習で何度も見慣れた光景だ。大丈夫、全然打てるぞ)


 万場弟が左腕から球を放つその瞬間まで、星にはまだそんな余裕があったのだが……。


「ストライク!」


 内角ギリギリをえぐるスライダーに審判がストライクコールを叫ぶ中、星は恐怖心から球を避けようとして尻餅をついていた。


(なぜだ? なぜ俺は今、万場弟が投げる球に恐怖心を感じてしまったんだ? あんだけ練習してきたっていうのに……)


 その後も星は、尻餅こそつくことはなかったのものの、恐怖心から思うようなスイングができないまま、まるで1年前の再現かのようなやられようであっけなく三振に倒れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る