第428話 恐怖のカット隊③

 戸次監督の話が終わると、選手達はしばらくの間考え込んでいた。


(このまま普通に練習を続けたところで、果たして俺は1軍に上がれるのか?)


(どうせ無理だろうな)


(ならワンチャン狙って、このカット隊に賭けてみるのもありなんじゃないか?)


「監督! 俺、カット隊に入りたいです」


 ある1人の選手がそう言うと、それを口火にして次々に声が上がった。


「俺も入りたいです」


「俺もやらせてください」


「挑戦してみたいです」


 最終的に、カット隊に入りたいと志願した選手達は総勢50名を超えていた。


 それから約1年間。カット隊に志願した選手達は、最低限の守備練習以外は全てカットの練習に当てるという特別メニューでひたすらカットの技術を磨き続けた。そして、その中でも特にカットの技術に優れた6名が、見事1軍への昇格を果たし夏の甲子園でベンチ入りすることとなったのだった。


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(船町北のピッチャー3人の中でも、比嘉の才能はずばぬけとる。変化球なしのストレートだけであそこまでバッターを抑える能力、しかもあれがまだ1年生っちゅうのが恐ろしい話やわ。正直、うちの打線でも確実に打ち崩せるかと問われれば、絶対とまでは断言できへん。せやけど、比嘉には致命的な欠陥がある。それは、あまりにも厳しすぎる球数制限や。調べてみたら、予選からここまで1度も1試合で80球以上投げさせておらへんやないかい。こんなん、うちのカット隊に出てくださいとお願いしてるようなもんやないか。船町北はん、ほんまおおきに。実は中々カット隊を出場させる機会がなくて困っとったんですわ。でも比嘉のおかげで、やっと1年かけて作り上げた自慢のカット隊を活躍させる機会に恵まれましたわ)


「カーン!」


「ファール!」


「カーン!」


「ファール!」


 その後も執拗なまでのカット隊によるカット打法は続いた。




「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」


 なんとか初回を3者連続三振で抑えた比嘉西郷バッテリー。しかし、すでに比嘉の球数は40球にまで達していた。

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