第346話 残り2球

(1回目の対戦は初球をたまたまホームランにできたが、2回目の対戦では手も足も出なかった。そしてこの3回目の対戦も、最初の2球は見逃した。でもそのおかげでようやく、お前が投げる2種類のストレートがだいたいどんなもんかわかってきたぜ)


 比嘉が3球目を投げてすぐ、角田は確信する。


(この感じは……浮き上がるストレートだ!)


「カーン!」


「ファール!」


(ちっ、捉え損ねたか。でもタイミングはバッチリだった。次こそは完璧に捉えて、この大会で清村弟の記録を超える単独トップのホームラン王になってやる)


 比嘉が4球目の投球フォームに入る。


(さあ比嘉よ、浮き上がるストレートだろうが普通のストレートだろうがどちらでもかかってこい。俺が返り討ちにしてくれるわ)


 比嘉が4球目を投げた瞬間、角田は瞬時にその球を分析する。


(この遅い感じは……浮き上がるストレートだ!)


 そう瞬時に脳内で分析結果を弾き出すと同時に、スイングを始めようとする角田。しかし、ここで角田はある違和感に気付く。


(あれ? 何だかあまりにも遅すぎねえか? それに球の軌道が高すぎる。これじゃあ高めに外れるどころかキャッチャーも取れない暴投になるぞ)


 そう思って直ちにスイングを止める角田。しかし、ここで角田は信じられない光景を目にする。


(はぁ? なんで浮き上がるストレートのはずなのに、どんどん落ちてんだよ。これじゃあまるで……)


 角田が高めに外れていくと予想していた球は、山なりの軌道を描きながら落ちていき、ストライクゾーンのど真ん中を通過していった。


(ただのスローボールじゃねえか)


「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」


     123456789

 船町北 00010000

 三街道 01000000


 春季大会の千葉修道戦で肩を痛めて以降、様々な制約がある中で比嘉が夏の甲子園に向けて西郷にも相談しながら密かに練習していたスローボール。しかし、あまり多投してしまうと狙い打ちにされてしまう危険があるため、まだ公式試合では1度も投げたことのなかったこの球を、ここしかないというこの場面で効果的に使い見事角田を空振り三振に打ち取った。


「比嘉、ナイススローボールたい!」


「面白いくらいバッチリ決まりましたね。いやー気持ち良かった」


「でも恐らくこれで、今日の比嘉の登板は最後たい」


「あっ、しまった。1球角田に粘られたせいでもう残り2球しかないのか」


 できれば比嘉には残り3球を残して、また今回のようなピンチの時に登板して欲しいと願っていた鈴井監督だったが、角田のファールのせいで計算が狂ってしまい頭を抱えていた。

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