第347話 モヤモヤ

(これでもういよいよ、残りのイニングは川合と心中するしかなさそうだ。あと1イニングだけならまだしも、延長戦にでもなったらさすがに厳しいぞ。だが9回表は1番から始まる上位打線。そして安達に打席が回る。頼むぞお前ら。何としてもここで点を入れて、延長戦まで持ち越させずに試合を決めてくれ!)


 9回表。そんな鈴井監督の想いも背負って打席に立つ1番バッターの星だったが……。


「カーン!!」


 細田兄の157キロのストレートに何とかバットを当てるがやっと。打球はピッチャーフライとなり1アウト。そんな星を見て、ネクストバッターの野口は、より一層気持ちを強く持って打席に向かった。


(星といい俺といい、船町北の1番2番を任されているっていうのに未だに出塁すらできていないじゃないか。このまま細田兄弟にやられっぱなしで終わる訳にはいかねえ)


 しかし、細田兄に代わった細田弟の多彩な変化球の前には、気持ちの強さだけではどうすることもできなかった。


「ストライク! バッターアウト!」


 あっという間に2アウトまで追い込まれてしまった船町北打線。しかし、この土壇場で打席に上がるは船町北の絶対的な主砲安達。まだまだチームの士気は落ちていなかった。


「安達! 頼むぞ!」


「ホームランで決勝点だ!」


「絶対俺達が甲子園に行くぞ!」


 そんな船町北ベンチや観客席から聞こえてくる声援を耳にしながら、細田弟に代わって再びマウンドに上がった細田兄は、前の打席で安達と対戦した時から感じていた心のモヤモヤに悩まされていた。


(前の打席では、三球三振で俺の圧勝だった。にもかかわらず、何だこのモヤモヤは。全然スッキリしない)


 心のモヤモヤの正体が何なのかよく理解できないまま、安達に初球を投げる細田兄。


「ボール!」


(やべっ、低過ぎたか。もうちょっとだけ高めに調整して……)


 2球目。


「ストライク!」


 外角よりの低めいっぱいに決まったストレートを見て、ほっと一息つく細田兄。しかしこの瞬間、細田兄はハッとした。


(こんなやり方で安達を抑えたところで、果たして本当に安達に勝ったと言えるのか?)

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