着信音
@shin32
音の悪魔
ある日のことである。
小鳥が平和に飛んでいる真っ青な空が窓に映る中、教室はカンカンカンと黒板に数式が書かれる音と先生の低い声で包まれていた。そんな平穏な時流に逆らって、明るい電子音が振動音と共に教室中に響いた。
ピロン ピロン ピロン
彼らの学校ではスマホの電源は必ず消さなければいけないという校則がある。
先生の黒板に数式を書く音が止まり、机に向かっていた生徒がどこから音が出たのか周りを見渡て犯人探しをし始めた。
彼も音に気づき、顔を上げたところ、やけにクラスメイトと目が合った。どうやら、彼の席周辺で着信音がなったのだ。
しかし、一回の着信音くらいでは誰のスマホから鳴ったのかはわからなかった。友達がふざけてあたかも彼が犯人のように煽ってきた。
電源を普通に消していれば、自分のスマホを今すぐ取り出して周りに見せれば潔白を証明できる。しかし、彼は、電源を消してはいなかった。なぜなら、いちいち電源をつけたり消したりするのが面倒だからだ。しかし、彼の場合、着信音を設定で鳴らないようにしているから、授業中に鳴る心配がない。
しかし、全て机上の空論であった。もし授業後に先生がスマホの電源がついてないかどうか確認されれば、事件に関係ない彼まで巻き込まれてしまう。先生に見つかれば、没収どころか面倒な説教までさせられてしまう。しかも、教室中のクラスメイトに見物されながら説教を受けることになれば、恥ずかしい思いをするだろう。
今、この状況で先生からスマホを没収されない方法はたった一つ。それは、もう一度着信音が鳴ることだ。さっきの着信音である程度場所は特定されたから、次に着信音が鳴れば、すぐに誰のスマホか特定される。彼は、緊張と焦りの感情を必死に胸に抑え込みながら授業を受けた。
あれほど真っ青だった空は雑巾のような色になり、太陽の光に照らされて明るい黄色だった教室は、やがて、蛍光灯の青白い色に染まった。
カンカンカンカン…
黒板に数式が書かれる音は何事もなかったかのように鳴り続けている。
もう着信音のことで頭がいっばいで、先生の話は右から左へ、どんどん抜けていく。
神様の存在を信じない彼だったが、この時ばかりは、神にもう一度着信音が鳴るように懇願した。
カンカンカンカン…
この出来事の翌日も彼のスマホの電源はついたままであった。
着信音 @shin32
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