第26話 魔法学基礎に関する授業
この世界には火、水、風、土、光、闇、それから無属性の魔法があるという。それぞれの人によって得意とする魔法属性があるそうだ。
「……しかしながら、全員が全員得意とする魔法があるわけではありません。偏りが無い人もいます。ちなみに私は光と闇がやや弱いですが、他は王国内ではそこそこ上位です」
魔工学の授業を初日にした後、魔法学基礎の授業が2日目に始まった。これらも貴族家の子息は初等学園で学んでいると思うのだが、あらためて授業をするのだという。その意図が今の所分からない。
エーヴェ先生は目の前の燭台にそれぞれの属性魔法を付与した雲のようなものを出しながら、講義を続ける。
「それぞれ属性同士に相性があると言われていますが……最新の魔法学研究ではそれが誤りだと考えられています。例えばかつては火魔法は水魔法に弱いと考えられていました。同じ程度の魔術師技能レベルであればたしかにやや水が優勢になりますが、それはほんの僅かな差です」
そうしてエーヴェ先生は燭台へ手をかざすと、それぞれの属性雲がぶつかり合い、魔力は霧散していった。
「さて、皆さんは初等学園で一応このように燭台へ属性魔法を付与した雲を出す訓練をしていると思いますが、目の前の燭台へとりあえず灯してください。ルナさんとショーマ君はまだやったこと無いと思いますが……そうですね、エリーさん、ゾフィリアーネさんが教えてみてください」
「で、どうやればいいんだ、エリー、ゾフィー?」
「そうだなぁ……熟練の魔術師なら手を添えて互いの魔力をつなぎ教えるんだけどなぁ……」
エリーはどうしていいのか分からず、考え込む。そう言えば友達としての意識なのか、より高貴なゾフィーがいるからなのか、エリーは僕とルナに対する口調がだいぶくだけてきた気がする。
「そうですわね、ショーマさん。何かこう、イメージをするというか……。火なら温かい、水なら流れるように、風なら風ふくように、と。手をかざして、その先に雲をイメージし、そこに付与するのです」
ゾフィーは楽に話してくれと言っていたのだが、言った本人が楽な話し方というのがうまくできなかったらしく、結局こんな喋り方になっている。
「できた!」
ルナは一瞬で7つの燭台に雲を灯していた。よく見ると他の生徒より一回り大きな雲ができていた。さらに火属性は燃えるように、暖かく。闇属性は周囲の空間がやや歪んでるようにも見え、何かしらの特徴が各属性の雲に出ていた。
属性のイメージか。前世のゲームとかの魔法をイメージしてみるか。
「おや、思ったよりも早く出来たようですね」
エーヴェ先生が僕たちの席までやってきて燭台を覗き込む。結果的に僕はルナよりもやや雲が大きく、そして同じく属性の特徴が出ていた。ルナよりも出来が良いようで驚いたが、やはり食物の女神に対する信仰が広がるほど、僕自身の魔力は大きくなっているのだろうか。
「ルナさん、ショーマ君、それからエリーさん、ゾフィリアーネさんの燭台をよく見るように。各々の魔力量もあると思いますが、どのように魔力を放出するかのイメージをまずは大切になさい。それから万人に共通してる魔力量の増やし方は、日々魔力を出し切ることです。その繰り返しが潜在的な魔力量を大きくします」
全体を見回し先生は一息つく。
「元々も魔力量が少ない人もいるでしょう。でも、ある程度は訓練をすることにより、最初から平均的な魔力量をもつ人に追いつくことができます。ここにいるエリーさんは元々魔力量が少なかったのですよ」
初めてエリーに会った時、彼女は自分の外観を偽装する魔法を自分自身で施していた。どうも伯爵家の話を聞く限り彼女は魔法の才があるようだが、先生の話が本当のならば実は小さい時から努力を積み重ねてきたのかもしれない。
「では、今日の授業は引き続きこの燭台に灯してる雲を成長させていきましょう。多少魔力の暴走があっても、この教室内では暴発しないように制御されます。また、燭台本体も耐えられるでしょう」
魔法を使うにはイメージが大切だと説かれた。ということは……、例えば水を氷にするイメージも、水蒸気にするイメージも通用するのだろうか。
「なぁエリー。エリーは魔法で氷を作れたりするか?」
「氷?そうね。水属性で冷たさをイメージすれば……こんな感じね」
「わぁ冷たい!」
エリーが手に力を込めると僕とルナの目の前に飲み物に入れるサイズの氷がふわっと現れた。
「でも、ちょっとこれは魔力を使うわね」
「俺もやってみるか。……あぁ、割と簡単にできるな」
ルナ、エリー、ゾフィーの前に大小様々な氷を落としてみる。と言うことはこれもいけるな。
「雪!?雪を降らしたのですか」
「お、ゾフィーは雪を知ってるのか?」
次に霧をイメージする。濃霧が教室中を漂い始め、みな何事かと慌て始める。全体を覆ったころにパチン! と何かが弾ける音がし、霧が晴れる。教室を見渡すと僕ら4人と先生以外の燭台からは雲が消えていた。
「おや、暴走という訳ではないようですが、かなり大きな魔力量を完治したのか、教室に施されてる保護魔法が作動したようですね。見た所ショーマ君のようですが」
「先生、この状況は一体……」
「あぁエリーさん。これはショーマ君の魔力が大きく、おおよそ君たちと僕以外の魔力では耐えられなくて、他の燭台に灯されていた雲がかき消えてしまったのでしょう。しかし霧を出すとは……少し授業計画を変える必要がありそうですね。宜しい、君たち4人は自習時間とします。同じく魔法の練習をしても良いですが、隣の教室で行うように。他の者は引き続きここで練習しなさい」
先生に案内され、隣の教室へ移動する。教室の大きさはさほど変わらないが、どこか内装に重厚感を感じる。
「ここの教室に施されている保護結界は前の教室よりも強力です。君たち4人はそれぞのれ属性魔法を好きなようにイメージし、放出しなさい。魔力切れを起こす状態になっても検知するので大丈夫。好きなようにやりなさい。では、私は元の教室にいますね」
そう言って先生は去っていった。
「大変なことになってしまった感じですね……」
ゾフィーがぼそっとつぶやく。
「入学して2日目でやらかした感じね」
エリーがジト目を流してくる。
「やっぱりショーマすごい!」
ルナは僕のことを褒めながら雪を降らしたり教室中に氷を散りばめている。どう考えても床やカーテンに火が付いてるような気もするのだが、延焼せずにすぐ消えてしまっていた。
……これはあれだな、隔離というやつだな。
異世界料理士 我孫子(あびこ) @abiko_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界料理士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます