第2話 人質

 集落の男たちとヒエは、騒ぎを聞きつけたキビも合流して、川の洗い場へ向けて出発した。「アワ、流されちゃったのかしら。」不安そうにキビがつぶやく。「でも雨が降ったのは夜の深いころよ、雨が降る前にいなくなったんだわ。」ヒエも不安そうだ。

 「見ろ!橋がなくなってるぞ!」男が川の方を指さして叫ぶと、皆一目散に川の方へ走り出した。雨はやんで晴れているが、川には並々の濁流がそそぎ、皆に恐怖を与えた。ヒエは激しくうねる川を見つめ、足がすくんだ。「アワ、どこに消えちゃったの、、、。」


 集落へ帰ると、人々はアワが死んでしまったと思い皆泣いた。アワの旦那は、家の女同志仲が悪かったから、思い詰めて死んでしまったと思い、またよく泣いた。

「洗濯へ出かける前、アワ、女なんて足りてるって、怒っていましたのよ、アワの旦那。アナタが何人も嫁を迎えるからだわ。」ヒエが責め立てるとまた泣いた。

「ヒエ、おっかないわ。」キビは茹でて干したマメを口に運びながら小さい声でつぶやいた。


 アワが失踪して三日が経った。人々が広場でアワの葬儀をどうするのかもめていると、集落の外から広場に向かって三十人ほど、となりの国の民と見える男たちが、ぞろぞろと歩いてきた。「やれ、何事かね、橋が崩れていたろうに、こんなにたくさん。」集落の男が尋ねる。すると、やってきた男たちのうち長とみえる者が得意げに言った。「わたいらは山国(ヤマノクニ)のもの。三日前の大雨の夜、瓜国の女が川を越えてわたいらのの国に入り、あやしげな呪術を行うので、我々の集落に連れかえったのだ。」それを聞いた人々は目を見開いてお互いの顔を見合った。「あまりに不吉なので、殺してしまえと皆言ったが、それも不吉だから、取引をしに来たのだ。」「どんな取引か!」アワの旦那が目をさらに見開いてたずねる。


 「この地を、立ち去って、もらえませんかのう。それだけです。」

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女王卑弥呼ー絶世の悪女ー アヨガン・デスバレー @ayogan-999

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