馴初・(第参拾陸弾)
ベーコン・レタスぅ・トメィト・ドーッグ!ウィズ、カーフィー!
なんだよ紗枝、今日はノリノリだなぁ
なんか良いコトでもあったの?
いや、なんにもねーよ
むしろキミこそなんかあったんじゃねーの!
キミがシケた面ぁしてっからさ、元気出させてやろーかと思っただけだよ
てかさ、表の看板見たよ、お洒落な感じになってるじゃん
この店の雰囲気も壊さないシックな感じでさ、いいじゃんアレ
早速立て看板出すコトにしたんだね
ああ、キミの案だよ
オーナーもさ、全然気付かなかったってよ、この店が入り辛れぇの
もぉさ、何年やってんだっつぅの!
オーナーさん、看板出さないのとか拘りがあったワケじゃなかったんだね
店内もちょっと明るくなってるみたいだし、照明も変えた?
とっとっとぉ!
あっぶねぇ、乗せられるトコだったわぁ
ツルンと話変えやがったな
キミがミルクティーじゃなくコーヒーを頼む時は長居する時だって、あたしが気付いてないとでも思ってんのか?
今日は帰りたくねぇんだろ?分かってんぞ
お姐さんが優しくしてあげるから、話しなよ
そんなんじゃねーよ
確かに長居する時はお代わり出来るからコーヒーだね
自分でもあんまし意識してなかったけどさ
てかさ、話を変える時の擬音って、たぶん「ツルン」ではないと思うよ
「サラッと」とかじゃないかなぁ
いいんだよ、相変わらず細けぇなぁ
あ、看板、オーナー喜んでたぜ、親子2代に渡って世話んなっちまってるとか云うからさ
立て看板はあたしじゃなくてキミの提案だって云っておいたわ
そこから父ちゃんの若けぇ頃の話になってよ、思いがけず母ちゃんとの馴れ初めまで聞いちまったよ
マジで?
そう云えば紗枝のおやっさんとお袋さんの出逢いとか聞いたコトないわぁ
紗枝も初めて聞いたの?
ああ、聞いてビックリしたわ!
ウチのあの母ちゃん、駈け落ちだったんだってよ!
駈け落ちするタイプじゃねぇよなぁ
けどよ、云われてみりゃ母ちゃん方の親戚とか会ったコトねぇわ
爺ちゃんと婆ちゃんは早くに死んだって聞いてたけど、どぉだかねぇ
生きてたりしてね
そもそも2人は何処で知り合ったの?
ちょっと、聞かせてよ
母ちゃんはお嬢様学校を卒業した後、大手ゼネコンに勤めてたんだってさ
仕事は多分経理とか事務系だな
うん、お嬢様学校って云うのは頷けるよね
あの破天荒そうな職人気質のおやっさんとの接点が見えないよ
大手に就職して社内恋愛とかであわよくば玉の輿に乗って裕福な暮らしとかしてる方が似合ってる上品さはあるもんね
だっろー!?
そしたらあたしも上品なお嬢様に育ってたかも知んねぇよな
父ちゃんはさ、一人親方って云ってたけど、要は個人事業主だったからさ、営業して仕事を取ったり現場に入ったりお金の請求したり税金払ったりって云うの全部1人でやってたんだってよ
そっか、職人ってフリーランスのヒト多いもんね
正社員で雇用とかされてなかったらそうなんだろうね
まぁ、お嬢様の紗枝なんて想像出来ないし、多分魅力無いと思うけどさ
ぅるせーよ、放っとけ!
でさ、父ちゃんの得意先の現場の元締めが母ちゃんの勤めてたゼネコンでぇ
父ちゃんが請求書や領収書を持って行くと窓口に母ちゃんがいたんだってさ
あー、なるほどね、繋がったわ
で、おやっさんがお袋さんを口説いたんだね
おやっさん、カモクな感じだけど、やる時はやるんだねぇ
でさ、オーナーとか地元の悪ぃ仲間と散々悪っりぃ遊びに連れ回したらしいんだけどよ
お嬢様育ちの母ちゃんには見たコトもねぇ世界ばっかしでさ、すんげぇ楽しそうにしてたってよ
なんだろ?そのオーナーさんが云う悪っりぃ遊びって一体なんなんだろ?
若い頃のおやっさんとあのオーナーさんでしょ?
相当悪いコトしてそうだよね?
あはは、確かにな
どんな遊びをしてたかは聞かなかったけどよ、母ちゃんはイチコロだったってよ
勿論父ちゃんも本気だったってオーナー云ってたし
今度お袋さんにその頃の話を訊いてみようよ!
云われてみればさ、あの上品なお袋さんが紗枝のピアスだとかタトゥーに寛容に理解を示してるのも、なんとなく解った気がするよ
育ちはハイソだけど悪い世界も見てきてるから人間の幅が広いんだろうね、バランスとか良くってさ
でな、いよいよ母ちゃんの実家に挨拶に行ったらしいんだけどよ
当時の父ちゃんは見るからに悪そうで、玄関先で門前払い喰らったってさ
「ウチの娘には娘の幸福せがある!娘の幸福せを願うならまずは娘の前から消えてくれ!」ってな
ぅあー、キツいねそれ
けどそれで退き下がるおやっさんじゃないよね
てか、俺の知ってるおやっさんもまだ充分に悪そうに見えたけどな
ソコが格好良かったんだけどね
それがさ、退き下がったんだよ
確かにお嬢様の母ちゃんを自分が幸福せになんて出来ねぇなって、納得しちまったらしいんだな
オーナーの知る限り、父ちゃんの人生で一番落ち込んでたってよ
仕事で母ちゃんの会社に顔を出しても窓口に母ちゃん居なくなっちまってたらしいし
退き下がったのは意外だけど、本気だったんだね
その一途な感じは分かるかも
ホントに自分がお袋さんの前から消えた方がお袋さんの幸福せなんだとか思っちゃったんだろうね
そう云う感じ、ホントに紗枝のおやっさんは漢だよね
しばらく呑んだくれる日々が続いてて、オーナーも毎日の様に父ちゃんの自棄酒に付き合ったって云ってたわ
で、ある日父ちゃんが自分のアパートに戻ったらさ、でっけぇ荷物を持ってアパートの前で母ちゃんが待ってたんだってよ
すげぇドラマチック!!
お袋さん、やるなぁ!愛だな、愛
じゃあお袋さんはそれ以来1度も実家には還ってないんだね
完全に親子の縁を切ったって感じだね
ヤバい、惚れるわぁソレ
お袋さん格好良すぎだよ!
まぁな、あたしの母親だよ!
でさ、オーナーは仕事も続かなくてフラフラしてて、マブダチの父ちゃんも結婚して身を固めちまって途方に暮れてたんだってさ
毎日1人で酒ぇ呑んでお金が無くなると父ちゃんの仕事に着いてって駒使いとして使ってもらってお金貰って、また酒呑んで
あぁ、オーナーさん置いてかれちゃった感じだぁ
オーナーさんは彼女とか作らなかったのかなぁ、顔はおやっさんに負けないくらい強面だけど彼女作ろうと思えば出来そうな感じはあるよね?
ほら、父ちゃんはさ、一緒にヤンチャしてきた仲間ではあるけどさ
手に職付けて立派に仕事してたワケじゃん?
比べて自分は仕事も続かねぇし父ちゃんの現場に着いて行きゃ他の職人や現場監督と喧嘩とかして父ちゃんに迷惑掛けたりしちゃってて、とてもじゃねぇけどオンナ作って幸福せになんてしてやれねぇなって思ってたらしくてな
オーナーさん、そんな酷かったんだ!
今は立派に客商売してお店を切り盛りしてるじゃんねぇ
今からでも彼女とか作ればいいのにね
まぁな
その頃ウチの父ちゃんにさ、自分の人生をどぉしてぇのかって訊かれたんだってよ
勿論夢とかそんなモンは無かったんだけどな、ただ漠然と「自分の城が欲しい」って云ったんだと
父ちゃんみてぇに結婚して家庭を築く自信はねぇから、独りでも寂しくねぇ様な、誰かと毎日会ったり会話が出来るような自分の城が欲しいって
あー、それがこの店なんだ!
なるほどね、ココはもう完璧にオーナーさんの城だもんね!夢叶ってるんじゃん!
そそそ、あたしも知らなかったんだけどよ
この店を立ち上げる時に自営業のノウハウとか教えたり手続きとか手伝ったり、内装工場も父ちゃんが格安でやって、店が軌道に乗るまでも色々と面倒見てたんだってさ
今のオーナーが在るのは全部あたしの父ちゃんのオカゲだって云ってたよ
そして、この店は父ちゃんの形見みてぇなモンなんだってさ
あっちゃ!結局あたしが喋ってんじゃんか!
キミの話ぃ聞くぜ、どーした?
いや、ホントなんでもないんだ
この前の試験の結果があまり良くなかったのもあってさ、親父とギクシャクしてるってだけで
親父も仕事が調子悪いみたいでさ、ちょっとお酒の量が増えてるみたいだしね
もしかして敦子ちゃんのタトゥーのデザインも原因だったりする?
ソレ、他人事じゃねぇな
で、お父さんどんな感じなんだよ
いや、いいよホントに
何ってワケじゃないんだ、ただなんとなくねウチの空気が悪いなって感じ
けど、紗枝の両親の馴れ初めとか良い話を聞けて凄い気分転換になったし、ありがと
あ、お客さん来ちゃった
キミの看板のオカゲで今週は新しいお客さんがポツポツと来はじめてるんだよ
俺の看板じゃないけどね
新規のお客さん逃さない様に接客頑張って!
俺ももう適当に帰るし
んじゃ、ありがとね
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