始動・(第弐拾漆弾)

ベーコン・レタス・トマト・ドッグお待たせしましたー

  

はーい、こっちでーす・・・って

また白々しいなぁ

  

一昨日はサンクスな

キミが来て能天気にタケシくんの話とか持ち込んでくれたから空気変わって助かったわ

母ちゃんもキミが帰った後に妹の件を全部知っててワザト関係無い話をしてくれたのかってあたしに訊いてきたよ

  

公園で紗枝と会った時に最初にさ、紗枝が何か関係無い話をして気分転換したいって云ってたのを思い出してさ

それに、妹の話はいくら話したトコで結論とかが出るワケじゃないなって思ったからさ

  

だな、母ちゃん感心してたぜ

「あの仔も随分とオトナになったわね」ってさ

あのどんよりと淀んでた空気からさ、敦子ちゃんが学校に行ってみようかなって云い出す流れ、キミを連れて帰ったのは起死回生の一撃だったな

  

そんなんじゃねーよ、オーバーだろ

まぁ、タケシからの伝言がキッカケで話の流れが変わったのは確かにそうだけどさ

山口は今日は教育相談室で学校側と話だけして授業は受けずに帰ったよ

帰る前にウチのクラスに顔出してタケシと話してた

どうなるか判らないけど前向きに考えてるって云われたって俺に嬉しそうに報告してきたんだけどさ

たぶん山口は学校に復帰するコトを「前向きに」って云ったんだと思うんだけどね

タケシ、舞い上がっちゃっててさ

なんか水を注すのも可哀想だったから「よかったじゃん」って、どっちにも取れるような曖昧な返事をしといた

  

いやいやソコはよぉ、ちゃんと「復学のコトだろ?」って云ってやった方が優しかったんじゃねーの?

実際のトコ敦子ちゃんがタケシくんに何んて云ったのか聞いてたワケじゃねーけどな

あたしがココに来た時、敦子ちゃん来てたぜ

オーナーにも心配掛けたからって、挨拶してたわ

今回の事件じゃ敦子ちゃんは悪くねぇから学校側としては退学とかの処分は考えてねぇって云われたらしいよ

けど、居辛かったら転校とかの手続きには最大限の便宜を図って協力するから相談してくれって云われたってさ

  

まぁ、事件に巻き込まれた側なんだから退学処分とかはないだろうと思ってたけどさ、便宜を図るって遠回しに「転校してくれ」って意味だったりするのかなぁ

山口本人はどお考えてるんだろ?

紗枝の行ってる高校に転校するのも手じゃないかなぁ

  

それさ、あたしも思ったんだよ

けど今は転校は考えてないみてぇだな

あの学校に居れなくなったら学校辞めるってさ、転校してまで高校には行かねぇってよ

遊んで暮らさなきゃ2~30年くれぇは生きて行ける預金があるからな、それを学費で費やすだけの価値を転校には感じねぇってよ

けど今の高校には受験料や入学費も払ってるし、キミが居てくれて、タケシくんが「待ってる」って云ってくれてるから辞めずに済むなら卒業までは居ようかなって感じみてぇだな

  

そっか

てコトはさ、タケシに云った「前向きに」って、まんざらでもないのかもね

山口、タケシに「待ってる」って云われたの嬉しかったのかも

で、山口は帰っちゃったんだ

居たら復学祝いにBLTドッグでもおごったのにな

  

ほら、この店さ

最初にあたしのコトを偵察に来た時もキミが事故った時も、敦子ちゃんと一緒に妹が居たじゃんか

敦子ちゃんにとっては何年もの間あの妹は唯一の味方だったワケじゃん?

ココにいると妹を思い出しちまって、まだ辛れぇってさ

一昨日からずっと妹の遺書を何度も何度も読み返してるしよ、ぽっかり空いちまった孔が塞がるのには時間が掛かりそうだな

そうだ、キミが妹に制服のボタンを渡した後さ、妹が敦子ちゃんに退院したら受験勉強を始めるって云ってたらしいぜ

遅いかもしれねぇけど行きてぇ高校でも出来たんだろうってさ、引越先を探してた時も妹の勉強部屋は条件の中でも最優先だったよ

  

寒くなってきちゃったけどさ、週末にでも山口連れて海でも見に行こうか

紗枝もそろそろ心の洗濯をしたくなってきた頃なんじゃないの?

色々あったからね

  

それを云うなら「命の洗濯」な

良い提案だとは思ったけど、今週末はたぶんまだバタついてんなぁ

今、敦子ちゃんがマンションを引き払う手続きに管理事務所に行ってツイデにあのマンションの様子も見てくるって云ってて、時間があったら抑えて貰ってた新居も解約しに不動産屋にも行ってくるって云ってたんだけどよ、たぶん不動産屋の方は母ちゃんも一緒じゃなきゃダメかも知れねぇから、ダメだったら週末だなって

それから日曜にタトゥーの予約入れようと思うって云ってたぜ

あたしとキミの都合が良ければボディー・アート屋に電話するって云ってたわ

あたしは当然OKしたけどな、キミも大丈夫だろ?

  

それは丁度良かった

ほら、虎のタトゥーがポシャっちゃって拓巳さんトコに行く用事が無くなっちゃってたんだけど、日曜日辺りに顔を出したいなと思ってたんだよ

どのみち日曜日に行くツモリではいたんだけどね、口実を考えてたんだ

まぁ、用事なんてなくても行けばいいんだろうけどさ

で山口の新居はどおすんの?

また別の物件探す感じ?

  

今協議中だな、お金でめっちゃモメてるよ

あ、ぃゃ変な意味じゃねえーよ?

あたしと母ちゃんはさ、敦子ちゃん1人くれぇだったらウチで一緒に住めばいいじゃんって云ってんだけどよ、敦子ちゃんはウチで世話んなるんだったら食費とか色々と増えるワケだから自分でアパート借りた場合の家賃分くれぇはお金を毎月入れるって云って聞かねぇんだよ

母ちゃんは父ちゃんの部屋を片付けて空けるから家賃なんて水臭せぇコト云うなってさ

で、敦子ちゃんはお金を受け取ってもらえねぇなら逆に3人で住める部屋を探して自分が借りる家にあたしと母ちゃんを呼び寄せるとか云い出す始末よ

  

山口って案外頑固なんだな

あのお袋さん相手にそんな押し問答になってるんだ

けど、どぉ転がっても3人で暮らすコトにはなりそうだね

それを聞いてちょっと安心したわ

  

最初はさ、母ちゃんに通帳ごと渡してこんな忌まわしいお金は見たくもねぇから母ちゃんの好きに使ってくれって云っててさ

流石にそれは筋が違うし、母ちゃんも敦子ちゃんが散々辛い想いをして来た酬いなんだからこの通帳からは1円たりとも手は着けらんねぇって

けど、高校生が持ってるには金額も金額だし、一旦母ちゃんが預かって学費だとかお小遣いだとか管理するって話にまではなんとか歩み寄ったんだけどな

  

お袋さんがウンとは云わないだろうけどさ、下宿代だって割り切って食費分くらい受け取ってあげれば山口も納得するんじゃないのかな

保護者になって一緒に暮らすなら家族同然ってお袋さんが思うのも分かるけどね

お金なんて幾らあっても困るモンじゃないじゃん?

  

困るんだよ

母ちゃんに云わせれば困るんだってよ

お金はヒトの目を濁らせるんだって

お金は人間の不安を煽って、不安を埋める為にお金を手に入れても更なる不安と欲望を煽って、どれだけお金を手に入れても埋まることのない不安と欲望が膨らみ続けるんだって

  

それって、よく大富豪のヒトが云うよね

死んじゃえば1円も持って逝けないのに欲しい物をいくら買い漁っても満足出来ないし幾らお金があっても安心するには足りないって

でその膨大な財産自体が不安の原因になって慈善事業とかに多額の寄附とかしてみたり不安を埋める為に色々とやるけど結局は満たされないってね

やっぱ紗枝のお袋さんって、なんか悟ってるわぁ

  

父ちゃんもさ、宵越しの金は持たねーぜってタイプだったからな

自分が生きるのに必要な分だけあれば充分だって云う母ちゃんと価値観も合ってたんだろ

似た者夫婦って云うトコなんだろーけどな、母ちゃんは貧乏なのを誇りにすら思ってそうだからな

  

おやっさんね

今生きてたら山口に何て云うだろうね

紗枝もよく使うじゃん?「そんなんじゃねーよ」とかって俺、おやっさんの口真似してるけど結局のトコ「そんなんじゃねーよ」ひとつ取ってもさ、それが照れ隠しの肯定なのか本心からの否定なのか真意が判らないもんな

「つべこべ云ってねーで飯喰ってろ」とかは云いそうだけどね

  

あはは、その云い方は確かに父ちゃんだな

口数は少なかったけどよ、自分で考えて後悔しねぇ方を選べとか云うんじゃねーかな

あたしは父ちゃんにそんなコト云われたコトぁねぇけどさ、言葉じゃなくって背中でずっとそー云われて育って来た様な気がするからな

  

おやっさん確かに背中で語るタイプだったよね

ウチの親父と来たら背中から滲み出るモンなんて何んにもないよ、周囲りばっかり気にしちゃってさ

人並み以上の大学を出てるから、良い会社に勤めてるから、普通より多少良い給料貰ってるから、このご時世に家建てたから、何から何まで周囲りと比べて下を見て慢心してるだけで自分なんてモノがまるでないんだよなぁ

ソレで良いと思ってるのかよ!って云いたくなるんだよ

  

ソレで良いと思うぜ

あたしはよ、ソレがお父さんの生き方ならそれはそれで良いと思うんだ

価値観なんて人其々なんだしよ、キミにとっては父親だから目に付いたりすんのも解るけどよ、周囲りと比べて相対的にしか自分を見出だせないのって、別に特別なコトじゃねぇと思うんだ

逆にあたし等みてぇに絶対的な価値観で「自分」を確立出来たり、しよーとしてたりする方が特殊で一握りなんじゃねーかなって思うよ

あたしもよ、友達居なかったじゃんか?

いつも仲間と連るんで仲良し仔良ししてるクラスの全員がただのバカにしか見えなかった時期もあったからな、キミの気持ちは解るけどよ

  

そっか、そーだね

親父は親父、俺は俺でいいんだね、きっと

今紗枝の話を聞いて思ったんだけど、たぶん俺はその絶対的な「自分」って云うのを上手く説明して親父を説得したり出来る自信がないから苛立つんだな

  

かもな

全くカンケーねぇんだけどさ

キミの快気祝いの手巻き寿司ん時からさ、この前のファミレスや一昨日ウチに来た時とかにキミ、敦子ちゃんと会うと最初に人差指同士を突き合わせてタッチして挨拶してんじゃん?

あたしさ、アレ好きだわ

キミと敦子ちゃんの病院で初のテレパシー交信に由来してんだろ?

それを知ってんのあたしだけなんだぜみてぇな優越感もあるし、キミと敦子ちゃんがどんどん馴れてくれてるんだなって思うからさ、なんかアレ見るとありがてぇなって思うんだ

  

どぉした唐突に

山口の中じゃ実際どぉなのか分かんないけどね、俺はまだ鬼予備軍なのかも知れないって想定でさ、あの時の病院で「大丈夫」とか「安全」って認識してくれた俺だよって意味で人差指を突き出してるわ

過呼吸の予防にもなりそうな気がしてさ

けど山口の方も同時に人差指を突き出して来るから、流石にもう「鬼予備軍」はないかなとも思ってるんだけどね

  

敦子ちゃんさ、頭じゃ判ってんだよ

キミもそうだし、たぶんタケシくんもさ

自分に危害を加えるヤツとそーじゃねぇヤツくれぇは判断出来てんだよ

けどよ、身体に染み着いちゃってんだよな、所謂トラウマだよ

虐待、産まれてきてからずっとだもんな、男と2人きりの状況になると無条件に防衛本能が働いちまうんだよ

頭って云うか、理性で発作を抑えながらじゃねーとまだやっぱり2人きりはキビしそうだな

敦子ちゃんにとってタケシくんは、次の段階への挑戦みてぇなモンなんじゃねぇかな

  

妹の居なくなった孔を塞ごうとしてるのかもしれないけどさ

今日なんて復学してマンションの手続きや不動産屋のキャンセル、タケシとの話も進めて週末にはタトゥーでしょ?

山口、ちょっと走り過ぎじゃないかな?

自棄になってるとまでは云わないけどさ、無茶しようとしてるみたいに見えるな

いっこづつ片付けて行けばいいよ

紗枝、ちゃんと付いてて潰れちゃわない様に見ててあげなきゃだね

  

おー、そぉだな!

親友のあたしとしたコトが、そんな風には気遣えなかったわ

確かに一気にやり過ぎだよな

様子見ながらペースダウンする様に仕向けてみるわ、あんがと

でさ、頼みって程じゃねぇんだけどよ

提案があるんだけど、聞きてぇ?

  

なんだよ、云いたいんでしょ?

聞くよ、聞かないって云っても話すクセに

はいはい聞きたいです、どぉぞ

  

タトゥー彫った後によ、ワセリン塗ってくれるじゃん?

彫りたてで熱持ってヒリヒリしてるトコにさ、あの冷てぇのを丁寧に塗ってくれたじゃんか?

あれさ、エロい声を出しちゃいそうになるなくらい気持ちいいんだよな

なんか、痛みに耐えて頑張った御褒美みてぇでさ

  

うん、塗るねぇ

紗枝のタトゥーを彫ってた時は正にそんな気持ちも込めて塗ってたしね

お疲れ様とかお大事にとか、ありがとうって想いを込めて塗ってたよ

  

あれさぁ、敦子ちゃんのタトゥー彫る時はあたしに塗らせてもらえねぇかなぁ

デザインしたり彫ったりすんのはあたしには出来ねぇけどさ、敦子ちゃんのタトゥーが仕上がった時にあたしもなんか手伝いましたみてぇな気分になりてぇし、毎回敦子ちゃんにその「頑張ったね」の御褒美をあたしの手から渡してぇんだよ

  

何云ってんだよ紗枝

山口の全身タトゥーは紗枝の「壮大な計画」でしょ?

むしろ俺が「描くのと彫るのだけ手伝いました」って感じだよ

紗枝はこの総身彫りのプロデューサーみたいなモンだから「手伝った」なんて次元じゃないじゃん

その提案は勿論OKだよ

紗枝が同席してるとは云え、長時間あの狭いタトゥー・スタジオの中で男の俺と接触しなきゃで山口の発作も保つかどうか心配だったし、仮に過呼吸とか山口が限界を感じたりとかで中断する様なコトがあった場合にも、紗枝がワセリン係を担当しててくれれば俺も安心だし、良い提案だと思うよ

  

やったね!

云ってみるモンだね

別にあたしの親友の身体にキミがワセリン塗るために撫で回すのが嫌だとか、そんなんじゃねーからな

キミが気ぃ悪くしたらどぉしようかと思って云い方考えてたんだ

キミと敦子ちゃんが指先で挨拶すんの好きって云ったの、あれも本心だからな

なんかワセリン係のお願いのための前置きじゃねぇかとか、キミは勘繰りそぉだからな

  

そー云えばさ、ちょっと気になってたんだけどさ

一昨日俺が帰る時に山口が紗枝に「じゃ、ちゃーちゃんお風呂入ろう」って聞こえた気がしたんだけどさ

紗枝、山口と一緒に風呂に入ってんのか?

いや、別に全然いいんだけどさ、聞き間違えかも知れないし

ただ、そー聞こえちゃったから気になっちゃってさ

  

あひゃ

それ聞こえてたのかよ!

あ、やべ、あのお客さん帰るな

会計して来なきゃだわ

んじゃ、ごゆっくりどーぞぉ

  

ぁ、ぉ、おう

・・・んじゃ

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