報告・(第拾弐弾)
いい考えだったな
タトゥー彫る前に小一時間早く来て一緒に飯喰おうなんてさ
そー云やキミと二人でこんな風に外で喰うの初めてじゃね?
うん、日曜日はお袋さん教会に行ってるって云ってたからさ
紗枝1人で昼食べるんだったらその後の行先も時間も予定が同じなんだから一緒の方がいいかなと思ってさ
どぉ?痒みはとれた?
おお、おかげさんでな
火曜にさ、敦子ちゃんから電話あってな、水曜に会ったよ
敦子ちゃんって誰だっけ?
共通の知人なんてそう沢山はいないハズなんだけど、敦子ちゃんが分かんないや
キミ、冷たいねぃ?
あたしの電話番号を下駄箱に入れたら後はもう我関せずかよ
まぁ、それで任務完了って話だったからな、興味なきゃ別にいいんだけどよ
ぅおい!ちょっと待て!!
山口か!?敦子ちゃんって山口のコトか!?
もう会ったのかよ!
逆に、山口と会う前に俺になんか一言くらい声かけるかなと思ってたからさ
2人きり?妹は?大丈夫だったか?
おぅ、もう敦子ちゃんは友達なんかじゃねーよ、親友だよ
妹の云う「以心伝心」の意味もなんとなく分かったしな
凄い急展開だなぁ!
そんなに意気投合したのか、意思の疎通も出来るか心配してたのに
なんか色々とデリケートで話せないコトもありそうだけど、話せる範囲で聞かせてよ
あの姉妹が一心同体なのと同じ様にあたしもキミに隠し事はしたくねぇなって
あたしが云う前から敦子ちゃんの方から学校での他言無用を守れるならって条件でキミには何を話してもいいよってさ
マジかぁ
なんか、それだけでもホントに以心伝心っぽいな
それ、妹の通訳ナシで直接山口と会話したの?山口、喋った?
テレパシーだよ、最初は言葉は喋らなかったなぁ
中学の校門で待ち合わせしたんだよ
あたしは時間通りに行ったんだけどよ、やっぱりあの2人の方が先に着いててさ、敦子ちゃんは制服で妹は白ワンピ
店に来たのとおんなじ服装だったよ
前日に電話で妹と話した時にあたしん家に来いよとは云ってあったんだけど敦子ちゃん1人か妹と2人で来るのかは決めてなかった
火曜日に電話で妹と話したんだ
あの妹、なんかおかしくなかった?
何がって訊かれても分からないんだけどなんか様子が変なんだよな
で、校門の前で2人と会ったんだ
おう、2人があたしを見つけると妹が敦子ちゃんに何か二言三言耳打ちして敦子ちゃんは頷いてたんだ
で、あたしが校門の前まで辿り着く前に敦子ちゃんだけ1人でこっちに歩いてきた
妹の方を見たら深々とお辞儀してたよ
で、紗枝ん家まで2人で黙々と会話もせずに歩いたんだ
あたしはちょっとは話したよ
最初に「ども」とか、「ここを右」とかな
敦子ちゃんは半歩くらい後ろ歩いてて返事はなかったけどな
それ、話したって云えるの?
なんかさ、自己紹介みたいなのとか「あぁ?」の話とか
まぁ、そー云う感じではなかったのね
でさ、家に着いてとりあえず座ってもらって麦茶を出したんだよ
で、あたしも自分の麦茶持ってテーブルの向かい側に敦子ちゃんと向き合って座ったのな
そしたらよ、目を見開いて何とも表現出来ねぇ笑顔であたしを真っ直ぐ見てるんだよ
しばらくして、ゆっくり両手を差し伸べて来たからさ、ココは手を握ってやるトコだろって思ってあたしも両手で敦子ちゃんの手を握ったんだ
そしたら笑顔のまんま表情を変えずに大粒の涙をボロボロ流し出しやがってよ
うわ!マジかよ!
ごめん、申し訳ないけどそれ、ちょっと怖いな
紗枝は全然平気だったの?自宅に2人きりでしょ?
てか、山口も失語症ってワケじゃないんだからさ、喋ればいいのに
一瞬な、ほんの一瞬だけビビったよ
客観的に状況を俯瞰しちまってさ
これって、妹とかヘルパーさんとか付き添い無しで2人きりになっちゃってて大丈夫かよってね
なんかあった際に自分じゃ責任負いきれねぇ大それたコトをしでかしちゃってんじゃねーの?みたいな?
やっぱビビるよね?
山口のコトを障害者みたいには云いたくないけどさ
あんな山口を見ちゃったら、突然暴れだしたり襲ってきたり自害したり、絶対にないとは云いきれないし
常識じゃ想定出来ない行動をとるって可能性だって否めないもんね
そうそう、あたしに万が一のコトがあったらたぶん、キミは責任感じて自分を責めるだろーなとか過ったよ
キミは「山口はヤバいからやめよう」って云ってたし、あたしが自分で敦子ちゃんと友達になりてぇって決めたんだからキミは気にするなって
キミ宛の遺書みてぇなモンを書いておけばよかったなって、その一瞬の中で思ったのを思い出した
今後、あたしに何かあったら今の思い出せよ、遺言だ
やめろよ、縁起でもない
今こうして話せてるだからそんなコトは今後もないんでしょ?大丈夫なんだよね?
で、手を握り返してそのままずっと黙ってジーっとしてたの?
ああ、しばらくジーっとしてたな
笑顔で涙ボロボロ流す敦子ちゃんを眺めてたわ
で、丁度今話した様なコト考えて一瞬ギョっとした時にな、握ってる手の力を強めたんだよ、敦子ちゃんがな
そん時に聞こえたんだよ、声や言葉じゃねーんだよ
「こっちを見て」とか「あたしに集中して」とか「怖くないから、大丈夫だから、安心して」みたいな感情がいっぺんに握った手を通して伝わって来たんだよ
それは紗枝が一瞬ビビったからギョっとしたのが顔に出たんじゃないの?
テレパシーとかで頭の中を見透かされたとかじゃないんじゃないかな
テレパシーはそのすぐに後だよ
なんかさ、あたし、会話始めたんだよ、1人でな
「待たせたな、2年もこの時を待ってたんだろ?やっと会えたな」って自然とあたしの口から出てきたんだよ
あれ?とは思ったけど、敦子ちゃんまだ何も云ってないのに返事みてぇな台詞が自然と出てくるんだよ
「あたしも嬉しいよ、友達あたしも欲しかったんだと思うよ」ってな
敦子ちゃんは頷いたり顔の表情を変えたりしてるワケじゃねーのに、言葉以上に意思や感情の疎通が出来たんだよ
「あたしなんかを選んで、ずっと待っててくれてありがとーな」とか、あたしはテレパシーみてぇの送れねぇからさ、言葉で返事してたけど敦子ちゃんは言葉以上の強烈なモノをあたしの中に送り込んで来るんだよ
よく自閉症の子供とかがさ、記憶力だったり計算速度だったり超人的な能力を持ってたりって云う話は聞くけどさ
山口は自閉症ってワケじゃないし、超人的な能力って云ってもテレパシーって云うのは聞いたことないよな
けど、聞く限りじゃそれでちゃんと会話が成立してたみたいだからテレパシーかどうかは置いといて、意思の疎通は出来たんだね
でさ、出来立てホヤホヤの親友によ、見せてぇモンがあるって云って立ち上がって服を脱いだんだよ
まだ輪郭線しか入ってないけど、キミにデザインしてもらって彫ってもらってるタトゥーを自慢したくてな
友達にお気に入りのモンを見せたがるガキみてぇな気分になってよ
なに、紗枝いきなり服を脱いだんだ
山口ビックリしたんじゃないかな
ほら、だって中学ん時に山口がビアンだって噂があったコトが紗枝の耳にも入ってるのは知ってるワケだし
それに紗枝もよく脱いだな!
もしも噂がホントだったとしたら、つまり、なんだぁ、そーゆーコトになるかもしれないワケだし
もしかして紗枝、そーゆーの望んでたり?
そんなんじゃねーよ
まぁ、敦子ちゃんがレズビアンかもしれねぇって話はずっと頭にあったし、もしもそうなら知ってはおきてぇなとも思ってたし
それに、最初にキミが何か云ってたみてぇにもしも敦子ちゃんが恋愛対象としてあたしを見てるんだったら確かめたかったしな
なにもそんな身体張って確かめなくてもいいだろ
同じ中学で顔見知りとは云っても、初対面みたいなもんじゃん?
ハラハラするなぁ
正直云うとよ、多少の覚悟はしてたかもな
もしも肉体関係みてーなコトになるんだったら終始リードされるのは癪だからよ
服くれぇは脱がされる前に自分から脱ごうみてぇなのは会う前からあったかもな
で、敦子ちゃんも立ち上がって近寄ってきたから「まだ赤く腫れてるトコもあるけど、触ってもいいぜ」って云ったんだよ
そしたら敦子ちゃん、あたしの左腕にいきなり頬擦りしてきたんだ
敦子ちゃんの涙が冷たくて気持ちよくってさ
頬擦りしたまましばらく抱きつかれてたんだけど、なんて云うか、癒えたわぁ
ずっとこのままでいいぜって思った
マジかよ、なんだよそのワールド
ちょっと、一応確認なんだけどさ・・・
紗枝はタトゥーを見せるために上は脱いでたんだよね?
で2人とも立ったままで頬擦りされながら抱きつかれてたってコト?
無言でずっと
まぁまぁ、興奮すんなって
安心しろよ、あたしは上半身裸でポロリだったよ
で敦子ちゃんはまだ制服を着たまんまでな、結構長い時間そーしてたよ
安心出来るかよ!しかも「まだ」ってなんだ?
ちょっと、先に結果だけ聞かせてもらえる?
結局なに?ヤッたの?
落ち着けよ童貞!
そのすぐ後に敦子ちゃんも脱いだよ
躊躇いながらだったけど目の前で全裸になったよ、あたしもビビったよ
いよいよ来るか?来るのか?って思ったよ
けどな、敦子ちゃんの身体見たらレズビアンとかそーゆー次元の話じゃねーなって分かったよ
最初に目に入ったのは胸んトコにアイロンの形の火傷の痕な
で脇腹や太腿には刃物で刺されたり斬られた痕がいくつもあってよ
敦子ちゃん、ゆっくりと回って背中を向けたんだけど、ケツにももういっこアイロン痕、背中にもズタズタに斬り傷があったんだよ
な、なんだよそれ、虐待されてるのか?
親にやられてるのか?警察とか児童相談所とか、なんかあるだろ!
妹も一緒に虐待されてるのか?
ちょっと、詳しく話を聞いてあげた方がいいんじゃないか?
あたしはさ、そんな風に冷静に考えてる余裕なくてよ
「酷でぇコトしやがる」って呟いて次の瞬間にはもう敦子ちゃんをぎゅっと抱き締めてたぜ
で、そのままボソボソと敦子ちゃんが口を開いて山口敦子16年間の身の上話を語りだしたんだけどな、長くなるから続きはタトゥーの後だな
終わったらまたココに来ようぜ!
別のカフェでもいいけどよ、予約の時間までに全部は話せねーや
はぁ?こんな中途半端に話を止められてタトゥー彫れるかって云うの!
もうちょっと時間残ってるし拓巳さんの店すぐ隣なんだからギリギリまで話の続き聞かせてよ!
あーとーだ!
先にボディー・アート屋に行ってるぜ
早く来いよ!
あ、待ってよ!
俺ももう行くからさ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます