虐待・(第拾参弾)

おまたせー

いやぁ、悪りぃ悪りぃ

って、さっき昼飯喰ったのにまた喰ってんのかよ!


集中力使うと腹が減ってさ

で?拓巳さんと5分10分話があるって、なんだったの?

結局30分以上話してたみたいだけど

あ、ポテト食べる?冷めちゃったけどね


おぅ、サンキュ

店長との話は、まだ分かんねぇし、その時が来ても来なくってもいずれキミには話すよ

ちょっと相談乗ってもらっててさ

それはそうと、コンペティションって云ったっけ?

キミ、参戦するんだろ?てか、やれよな!

参加費とか、あたしが出してやってもいいぜ


いや、それはちょっと時間かけて考えてからにしたいな

参加費くらい自分で出せるよ、まぁ紗枝が無理矢理にでも参戦させたくて云ってるのは分かるけどさ

勝ち抜く自信もないし、もしも勝っちゃっても、その後実際にクライアントさんに彫らなきゃって考えるとさ


だからさぁ、店長が云ってるみてぇにデザインだけ描いて参戦して彫るのは店長に任せてお金は山分けってラインでいいじゃんか

いいシステムだと思ったぜ


まぁ、参戦するかしないかは後で決めるとして描くだけ描いてはみようとは思ってるよ

拓巳さんが彫るって云ってるのは俺にカマかけてるんだよ

俺の中では既に誰が彫るかなんて問題じゃないって見抜いてて、俺にクライアントの身体に一生遺る絵が描けるかどうか、度胸を見てるんだよ

コンペ、勝てたら今度は「お前が描いたモノをお前以外のヤツに彫らせて後悔しないか?」って訊いてくるよ

いや、たぶん勝っちゃったらそんな質問もせずに俺に彫らせると思うし、その時には俺も腹括ってると思う

だからちょっと時間かけて覚悟を決めたいんだ


深っけぇなぁ!

キミと店長との会話、その場にいてあたしも聞いてたけどよ、そんな深けぇ話だったのかよ!

男同士って難しいな!

云われなきゃ理解んなかったわ、確かにそーだわ

あたしがとやかく口挟める話じゃなさそうだけどよ、あたしは応援してるからな!

出来るコトがあったら何でもするからよ、云えよな!


おう、ありがとう

で?山口が言葉で話し始めたってトコからだったよね?

もーね、その話も重いし拓巳さんの話も大事だしで頭ん中ぐちゃぐちゃだよ

いっこずつ来てくれないかなぁ

じっくり聞いたり考えたりしたい話が一気に重なって・・・

はい!おけっ!今頭切り替えたから

山口の話の続きを頼む、身の上話だったよね


あー、頭ぐちゃぐちゃのトコ悪りぃんだけどさ

先にいっこ訊いてもいいかなぁ

敦子ちゃんとハグしてた最中も思ったんだけど

さっきキミに彫ってもらってる最中も、キミはどう思ったかなって、気になってさ

実際、女同士でさ、裸で抱き合ってたワケじゃんかぁ?

やっぱこれってレズビアンってコトなのかなって、キミはどう思った?


親友でしょ、親友だよ

全然恋愛感情とか性的な欲求でそーなったワケじゃないし

事情も事情だし、仮に俺が紗枝と山口の関係をビアンだと位置付けても紗枝は自分で判断してる関係だと信じてていいと思うよ


そか、そんなツモリって云うか自覚はなかったんだけどよ

もしかしてコレって一線を越えちゃったってヤツだったりすんのかなって思ってさ

あんがとよ

んでさ、あたしが敦子ちゃんを抱き締めてあげたらさ、敦子ちゃんもあたしの腰に手ぇ回して抱き返してくれてな

ちょうど耳打ちするような感じであたしの耳元で囁き始めたんだよ


妹以外とは話をしない山口が初めて紗枝に心を開いたんだな

紗枝は俺の反応を「冷静」って云ってたけど、抱き締めてあげる方が正解だったんだよ、きっと


かもな

最初に囁いた単語は「お父さん」だったかな、「お父さん、お父さん、いっぱい」って感じで、最初は単語並べるだけでさ

初めの内はあたしが色々と聞き返して確かめてたんだけど、段々あたしも敦子ちゃんの云いたいコトに察っしがつくようになってきて敦子ちゃんの方もちょっとずつ単語から文章に変わってきたんだ


そっか、学校での自動お喋りモード以外では妹としか会話がなかったんだもんね

初めて他人と話をするような感覚だったのかもね

さっき云ってたテレパシーみたいなヤツだと感情は伝えられても具体的な話になると流石に言葉を使わないと限界あるだろうし


敦子ちゃん家は結構な金持ちらしいんだ

けど、母親は相当なビッチみてぇでよ

今まで何人もの「新しいお父さん」が入れ替わり立ち替わり来たって云ってたよ

水商売って云ってたけど具体的には何してんのか分かんねぇ

でその新しいお父さん達がよ、揃いも揃ってカスみてぇな野郎ばかりで

それなりの地位もあって高給取りばかりだったぽいけどよ

どいつもこいつも憂さ晴らしみてぇに敦子ちゃんに暴力を振ってたんだと

幼い頃から性的虐待を受けてて、お母さんは「お父さん」って云う名の鬼を次から次へと連れてくる悪魔だと思ってたって


うわぁ、キッツいなぁソレ

母親って何者なんだろ?高級ホステスとかかなぁ

自分の娘が酷い目に遇ってんのになんとも思わなかったのかなぁ

軒並み新しいお父さん達が暴力振るうってコトは、逆に母親の承認みたいなのがあったり?

いやぁ、だったらホント怖いわ!


有り得るな

一度顔面殴られて前歯がボロボロに折れたコトがあったらしいんだけどよ

その時に母親が「見えるところは厄介だから避けて!」って云ったらしい

ってコトはよ?見えねぇトコなら何してもいいってコトじゃね?

前歯は金にモノ云わせて直ぐに治したって云ってたけどな

帰宅して玄関開けるや否や出会い頭に殴る蹴るの暴行は茶飯事だったらしいよ


紗枝、そんな衝撃的な話を俺が聞いちゃったらタトゥー彫るのに支障があるなと思って話を打ち切ってくれたんだ、ありがと

もし先に聞いちゃってたら動揺して彫ってられなかったと思う


そんなんじゃねーよ

集中力が乱れてタトゥー失敗しちゃったら勿体ねぇだろ?半分は自分のためだよ

敦子ちゃんが5年生の頃って云ってたなぁ

その時のお父さんがよ、敦子ちゃんのコトを自分の頭の上まで持ち上げてそのまま床に叩き付けたんだってよ

一瞬息が出来なくなって脳震盪かなんかで意識が飛んだんだけど、そん時にその部屋の隅に同じくらいの歳の女の仔が体育座りしてこっちを見てたのが一瞬目に入ったんだって

意識が戻った後にはいなくなってたみたいだけど、こっちを焦点の定まらない目で眺めてんのに目が合わなかったその仔が印象的で、しばらくの間は気になったらしいんだ


あ、妹だな?

じゃやっぱり腹違いとかそんな生ぬるい話じゃないんだな

紗枝が云ってたみたいに「他人」なんだろう


ああ、お父さんがしょっちゅう入れ替わるような家庭だったからな、自分の家に知らねぇ仔が居てもなんの疑問もなかったって云ってたわぁ

その仔の存在を認識したのが5年生のその時ってだけで、もっと前からいたかもしんねぇし、その後もずっといたのかたまに来てるだけだったのかはよく覚えてねぇってよ


妹は虐待はされてなかったのかな

けど、山口が虐待されてるのを目の前で見せられちゃってるんだから、きっと二人とも重症だよな

男性恐怖症とかじゃなく、もはやPTSDだよ、過呼吸起こすのも無理はない


学校に行きゃクラスの鬼予備軍がカマキリの足とかをもぎ取って盛り上がったりしてるワケじゃん?

家に来る大人の鬼達は見えるトコは避けるって歯止めが効いてるけど、学校の鬼予備軍はきっといつか敦子ちゃんの手足をもぎ取ったりして、最終的には殺されるんだろうなって思ってたらしい


確かに小学生の男子なんて野蛮で残酷な生き物だけどさ

そんな風に思ってたんじゃ家でも学校でも生きた心地しないよな

ホントお気の毒な話だな、あの山口がそんな幼少期だったなんて


小学校の卒業式の時に、在校生席にその仔がいるのを見つけたらしいんだ

同じ学校に自分が家で虐待されてんのを知ってる仔がいたって云うのが脅威だったって

それで流石に恐くなって母親に訊いたらしいんだ、誰なのってな

そしたら一言「あんたの妹」とだけ返ってきたって


てコトはさ、小学校を卒業する頃には自分ん家が特殊だって自覚はもうあったんだね

妹の存在が脅威になるってコトは既に学校用お喋りモードみたいのは確立されてたってコトだよね

じゃ、小学生の頃からずっとその家庭環境を隠しながらの学校生活だったんだぁ


そうそう、まだ低学年の頃によ

女の仔はみんな殴られたり蹴られたりしてるモンだって思い込んでてな

学校で仲良くなった仔が家に遊びに来た時にお互いの傷を慰め合おうと思って服を脱がせたんだってよ

そしたら傷ひとつ無い純真無垢なお友達の身体が自分の部屋に突っ立ってるワケさ

想像すらしたコトのなかった無傷の身体を愛でずにはいられなかったってさ


そっかぁ

そんな家庭環境だと低学年のウチはまだ他所の家のコトなんて分かんないもんね

その時に山口も脱いでその友達に傷痕を見せてればまた何らかの進展があったかも知れないのに

ま、先に傷のないお友達の身体見ちゃったら後からは脱げないもんなぁ


で、その仔が特別なのか自分が特別なのか確かめたくてその後も何人かお友達が出来ると家に呼んでそーしてたってよ

だから中学んなってからの噂も根も葉も無ぇ作り話でもねぇし、レズビアンってコトにしとけば自分の身体中に傷があるコトも隠せるよーな気がしてたってよ


なるほどね、友達と家で裸って噂を聞いたら双方が脱いでたって勝手に妄想するもんね

確かにカムフラージュにはなってたかもね


で、中学になってから妹に話し掛けてみたんだってよ

そしたらあの妹、ヒトを呪い殺しそうな形相で敦子ちゃんを睨んで

「私は親に棄てられてアンタの地獄に放り込まれたんだよ!」

って云ったらしい

妹が小6で敦子ちゃんが中1たぜ、強烈な話じゃね?


ああ、強烈だね

そんな環境下じゃ仕方ないけどね

妹の感情のない喋り方だとかも納得できるわ

きっと世界中を怨んでるだろう


現時点ではまだ妹は敦子ちゃんに心を開いてるワケじゃないらしいんだ

ただ、選択肢がないから敦子ちゃんの話は否応無しに聞いてるって感じで

キミとファミレスで会いたいと云われれば仕方無しに通訳に着いて来るって感じ?


あー、すげぇ納得!

ホント、正にそんな感じだったよ

なんか、役目を果たすためだけに喋ってるって感じ

じゃ、妹から山口へは何にも話さないのかな


そーでもないらしいんだ

敦子ちゃんが床に叩き付けられたのは、妹の元父親が妹の為に渡してる金で敦子ちゃんに良い服を買い与えて着せてるって勘違いからだったって、妹が云ってたらしい

実際はビッチの母親が稼いだ金で買ってたみてぇなんだけどよ

以来、敦子ちゃんは絶対に私服を着なくなったってさ


それで放課後どこで見ても制服なんだ!

けど、母親に買い与えられた服なら堂々と着ればいいのに

ぁ、でもそんな痛い目に遭ったんじゃ怖くて私服を着る気にもならないか


ま、敦子ちゃんの話はこんなトコだな

で、今からちょっと敦子ちゃんに話があるから呼び出そうと思うんだけどよ

キミも一緒に来るか?


無理だろ!

たった今そんな話聞かされちゃって、俺どんな顔して会えると思ってるんだよ!

まぁ、一応声掛けてくれたってのはわかるけど、山口の中じゃ俺もまだ鬼予備軍なワケだし

云えたら俺からよろしく云ってたとだけ伝えておいてもらえる?

明日から学校でどんな顔して会えばいいのかも分からないのに、今日は遠慮しとくよ

クラスが違うのがせめてもの救いだな


ま、キミと敦子ちゃんは少しでも早く打ち解けて面と向かって話とか出来るようになって貰わなきゃ困るんだけどな

ま、その時が来ても来なくってもキミにはいずれ全部話すよ

んじゃ、あまり遅くなると敦子ちゃん出てこれなくなるかもしんねぇから、もう行くぜ?

あ、今日もタトゥーお疲れさま、ありがとな


やれやれ、何を企んでるやら

拓巳さんとの相談も関係あるのかな?

まぁ、いいや、その時が来ても来なくてもね

んじゃ、またね

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