部屋の前で


 この屋敷の主の自室の前までやってきた多留比たるひ

 彼は、一度、部屋の木の扉の前で大きく深呼吸をすると、軽く扉をたたいた。

 コンコン。

「姫さま。おはようございます。多留比です。お目ざめにございますか」

 多留比は扉の向こう側に、問いかけた。

「…………」

「姫さま。起きてください。姫さま」

 返事が返ってこないことに内心あきれつつも、多留比は先ほどよりも少し強めに扉をたたく。

「……………………」

 相変わらず、部屋の中からは一言も応答がない。これじゃダメだ、と思った多留比は、強行突入、という手段に出ることにした。

 大きく息を吸う。 

「…………ひ・め・さ・ま。入りますよ」



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