余りものの音節

作者 君足巳足

39

13人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

 不死の特性を持つ吸血鬼ふたりが、家で共に食卓を囲むお話。
 歴史の影に生きる吸血鬼の姿を描いたローファンタジー、あるいはある種の『if』を描いたSFです。が、その辺(区分けとしてのジャンル名)は正直どうでもいいというか、もしこの作品をひとことで紹介するのであれば、もっと別の単語を探したいような印象。ちょうどいい言葉が見つからなくて困るのですけれど、それでも無理矢理形容するのであれば、「人間の機微、心の細やかな有り様を描いた物語」というのが一番直観に近いかもしれません。というか、そこが好き。
 面白かったです。とてもよかったのですけれど、でもどうしよう本当に言葉にできない……とりあえずぱっと見てわかることとして、文章の感覚がとても好きです。簡潔でわかりやすいのに情緒的というか、視点保持者の心情をその手触りごと活写したかのような一人称体。語り口だけでなく物事の切り取り方まで含めて、文章・文体そのものに人柄やその時々の感情を重ねる、この文章のウエットな感触が本当にたまらん感じでした。一文、あるいは一語から読み取れるものの多さ。
 全体の構成は少し風変わりで、ふたりの主人公それぞれの視点を、各話ごとに交互に行き来する形で書かれています。なんならストーリーそのものも主人公ごとに別々と考えてもいいくらい。ただそこで生きてくるのが先述の文章の魅力で、書き分け、という言い方が正しいかどうかはわからないのですが(なにしろリズム自体は一緒というか、抵抗になるようなデコボコ感はない)、でも描かれているものの質感の違いにびっくりしました。
 例えば男性の方(『おれ』)。淡々と、客観的な事実をただ並べる形で語られる物事。そしてその多くがこれまで歩いてきた足跡、すなわち過ぎ去った過去の物語であること。
 そしてもうひとりの女性(『わたし』)。描かれるものは主に現在で、その先に見ているものもどちらか… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

物語の組み立て、構成のうまさ、ギミック、読者を驚かせるというのがとても上手、という作者の素晴らしい技術力は前提として。

今回の作品は一文一文が丁寧で、心に残る。ようは「エモい」
なにかで読んだことがある気がするあいまいな記憶ですが、
「純文学というのは、一つの文章にたいしてコスト(情報量、与える感動)が高い」(記憶があいまいなので純文学が主語じゃないかもしれないし、言い回しが違うかもしれません。悪しからず)
ようは、この作品がものすごくコストが高いってことです。
以下に好きな部分を書き出していきます。
(問題があると指摘されたら消します)



※以下作品内抜粋するため、未読の方はご注意を

『どういう原理か、飲み込めてしまった。』
 (→ここで不死性、というものが「当事者もわからない」ものである、と
 完結そして違和感なく説明できている)

『ねえ、あなたは、幸せだった?』
 (→カニバリズムからこうくるとは思わないじゃないですか……すき)

『同類がいなくなり、何もなくなった。
 何もなくなったから、何でもなかった。
 何でもなかったから、何者でもなくなってしまった。』
 (→最高すぎてなにもいえない)

『ただ、ふわりと小さく死んでしまいたい。
それを叶えてくれる貴方とずっと抱き合っていたい。』
 (→短歌のような、詩を思わせる、手の届く範囲内、きっと二人の中で届くだけの『小ささ』と慈しみ。うつくしい……)


この後はすべてえもいので、未読のひとは読んで確認してください。