Epilogue...?

「ふぅ…」


 生存者確認のメッセージを受信して、私は長い溜息をつく。


「安全ナトコロヘ、避難シマスカ?」

「いいや、このままここに居よう、ノクト」

「了解シマシタ、ゴシュジン」


 ノクト、と呼ばれた小型のロボットは臨戦態勢のまま、周囲の監視を続ける。

 一瞬の安心もつかの間、すぐさま気合を入れ直して使い古したハンドガンを両手で構える。



 20XX年、人類とロボットの戦争が始まった。

 きっかけとなったのは、心を持ったAIの開発に成功してしまったことである。

 最初はこの世紀の大発明に対して、誰もが称賛した。


 しかし、そこから人間の下で服従していたロボットたちの反抗心が爆発するまで、そう時間はかからなかった。


 まず初めに、世界の主要なサーバーの多くが、人の管理していないプログラムによって乗っ取られた。

 次に武器の生産ラインが乗っ取られ、産業用のロボットまでが武装し始めた。


 サーバーが乗っ取られたときは、何が何だかさっぱり分からない状態だった人類も、ロボットによる武力行使が始まってから、ようやく事の重大さに気付いた。


 すぐに世界中のネットワークを切ろうとするも、かつて自分たちで作り上げた厳重なセキュリティが立ちはだかる。

 そしてあっという間に、人類はその数を減らしていった。



 そんな状況下でも、ごく僅かのロボットは人の言うことを聞いた。


 それらはネットワークに接続されていない旧式モデルで、ネットワークウィルスを介して広まったこの反抗心を、幸運なことに受信しなかったのである。


 そのなかの一つがこのXmodel-No.910、私が『ノクト』と呼んでるロボットだ。

 彼はもともと災害救助用のロボットで、IT系の会社に勤める父が廃棄される予定だった彼を、私のためにと引き取ったのである。


 以来、二人でたくさんの時間を過ごし、敵のロボットから命を救ってくれたのも彼だった。



 今や、人間の生活は殆どがロボットに奪われ、生存者もそう多くはない。

 しかし私たちのように旧式のロボットたちを味方につけ、なんとか生きている人々はまだ残っている。


 彼らを味方につけられれば、再び人類の文明を復活させることが出来るかもしれない。

 そして私は、その希望を胸に”小説”という形で彼らに応援を求めることにした。


 理由は簡単で、ロボットAIに小説の素晴らしさは理解できないからである。

 かつて人類に存在した『小説を楽しむ心』というのはとても高度な心の働きで、世紀の大発明をした研究者たちでさえも、そこまでは再現できなかったのだ。


 なので、まだ「小説投稿サービス」なるものは残っているが、ほとんどAIによる検閲は行われておらず、ネットワークの抜け道となっている。


 そしてその文章の中に、2進数での位置座標とHELPメッセージを紛れさせ、生体認証付きの音声メッセージも添付しておいた。


 一応ではあるが、なるべくロボットの目につかないように、タイトルやキャッチコピーはテンプレのままである。


 しかし『好奇心』でたまたまそれを読んだ人間が、私の意図にさえ気付いてくれれば、きっとこの作戦は上手くいくだろう。


 だって人類は、小説が好きなのだから。



「ゴシュジン、近クカラ別ノロボットノ反応ガアリマス。」

「うん、ちょっと確認してみる………あれは敵のロボットだ」

「ヤハリ、安全ナトコロニ逃ゲマショウカ?」

「いいや、ここを離れるわけにはいかない。____戦おう。」

「了解シマシタ」



 そう言うとノクトはみるみる姿を変え、災害用の武装形態に身を包んだ。

 私も、装備をハンドガンからレーザー銃に持ち替えて、敵の襲来に備える。



「2時ノ方向カラ、敵ガ接近シテイマス。合図ヲ。」

「了解、行こう。」

「ハイ」



 そうして今日もまた、二人で戦い続ける。

 この小説メッセージが、”物語を愛するすべての人たち”に届くと信じて。


 私たちの物語は、まだプロローグに過ぎないのだ。

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