第3話(完結)
「わぁ、見て。外、雪が降っているよ。寒そうだね。」
弟がカーテンをめくって、つぶやいた。見ると、ちらちらと雪が舞っていた。この地域は、毎年一度は車も走れなくなるくらいの雪が積もる。ちらちらと埃のように舞うレベルでははしゃぐ気持ちにはならない。寒いだけだ。
外は今日も寒いのだろう。寒い?そうか、と思い窓際の弟の方を見た。
「おい。祥平、窓を開けてくれ。」
「え、なんで?寒いよ。」
「それが良いんだ。ブロックを冷やすのに丁度良い。」
俺は、散らばったホカブロックを窓際の方に寄せた。
ビュオッ。
一気に子供部屋に冷気が入り込んできた。切れのある冷気が部屋全体の温度を瞬く間に下げる。
「うぁあぁ、さっぶーい」
ワザとらしく肩をさする弟を横目に、窓際にブロックを並べた。思った通りだ。
ホカブロックは冷気の当たったところから、少しずつ硬化し始めた。豆腐の表面が乾燥していくように、中はまだぶよぶよと柔らかいが、すぐにブロックという名にふさわしい硬さに戻るだろう。
「兄ちゃん、寒いよ。窓閉めようよ~。」
早くも、鼻を赤らみ始めた弟が、弱音を吐く。俺は、残りのホカブロックを洗面器に入れ、窓際に運んだ。
「ブロックが冷えるまで、我慢しろよ。」
いいか、窓を閉めるなよ。と言い残し、トイレに行こうと部屋を出かけた時に、父親が一階の居間から上がってくるのが見えた。
「お、どうだ。進んでるか?」
まずい、子供部屋を見に来る気だ。
俺は慌てて、部屋に戻り、弟にすばやく指示を出した。
「おい、父さんがくる。窓を閉めろ。」
弟がバタバタと走り、窓を閉める。
「うわ、どうしたこの部屋。ずいぶん寒いじゃないか。」
部屋に入ってきた父は、きゅんと冷え切った子供部屋に驚く。二の腕をさすりながら、ホカブロックが散乱した部屋にずかずかと入ってきた。何やら手にポットを持っている。
「丁度良かった。そろそろブロックが冷える頃だろうと思って。ほら、湯を持ってきてやったぞ」
え。
止める間もなかった。
白い湯気がもくもくと上がった。
「うわ、あったかーい」
呑気な弟が、ブロックを両の頬にあてて、だらしない笑みを向けてきた。
「それにしても、不思議なブロックだな。鍋の中の白菜みたいにとろとろになる」
父は熱湯が直接かかったブロックを、つまみ、ハフハフと息を吹きかけている。
「ほれ。」
と渡されたブロックは、冷え切った手を溶かしながら、だらりと形を崩した。
芯まで温まった不思議なブロックを見つめていると、目の裏がじんわりと熱くなった。
おわり
はふはふの積み木 シマトネリコ @shimatone
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