第2話

一言でいうと、父は、大雑把な性格だ。ビールを飲み終わった後のコップに、平気で麦茶を注ぐし、お風呂でシャンプーを流すときは洗面器で湯をすくってザーッと流す。シャワーを使って耳の後ろまで洗いなさいという母とは対照的だ。だから父にとって水というのは、冷水か沸騰した熱水かの二択しかない。


朝、母が作っておいてくれた朝食を三人で食べた後、父に湯を沸かすようにお願いした。父はホカブロックについてそこまで詳しくはないけど、ああ、と言い、すぐに作ってくれた。と言っても、やかんに水を入れて、火にかけるだけなのだが、子供の俺たちは、この火を扱う資格がない。


案の定、父は水を沸騰させてしまった。俺と弟はあまり深く考えずにバケツ入ったブロックに湯をかけるように頼んだ。「暑いから気をつけろよ~」と湯が流し込まれたバケツからがいつもと違い、白い湯気がもくもくと吹き上がった。その時なぜ気付かなかったのかと正午を過ぎた今になっても後悔している。



ホカブロックの保温能力は、使い捨てカイロや水筒の保温力を遥かに超える。この素材が開発された当初は、暖房事情を大きく変える大発明だとずいぶん話題になったそうだ。一度温められると、一度怒ると、一日中機嫌が直らないことで有名な学年主任の先生並みにホットなままだった。初め俺たちは、いつもよりブロックが柔らかくなって、形を変え易くなったことを喜んでいた。父も喜ぶ俺たちを見て、得意げだった。でもブロックは何時になっても、柔らかいままで、一時間、二時間と経っても積木としての機能を完全に失ったままだった。


「くそう、柔らか過ぎて全然、積めない。」

貴重な土曜の制作時間が刻々と過ぎて行くことに焦りを感じていた。今日はメインとなる塔を完成させたかった。この塔を軸に城壁を作り上げる予定だったので、まずは高く積まないと、いつまで経っても作業が進まない。


「今日は諦めて、塀の方を作ろうよ。」

弟は現状に対して寛容すぎる。そもそも、設計事態は前から完成していたのに、土曜まで塔の建設に着手しなかったのは、理由がある。ブロックが冷めるまでの時間が違うと、若干色が変わってしまうので、できれば同じ日に一気に作ってしまいたかったのだ。ブロックの選定や施工の計画など、今日のために準備をしてきたことを考えると、いらいらしてきた。じんわりと温かいホカブロックを恨めしく思う。

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