エピローグ

 作戦司令室のドアの前で郷里はいつも緊張する。


 何度通っても慣れるということはない。

 そして今回は、いつにもまして、初めての時よりも緊張していた。

 ゆっくりと深呼吸をする。

 心を落ち着かせよう。

 そう思って息を吸い込んだ瞬間に自動ドアが反応してスライドした。


 心の準備も身体の準備もできてない不意打ちの状態で彼女たちと対峙する。


 作戦司令室はいつもよりも華やかで、女性らしい香りがした。


 郷里は一歩踏み出し、かかとを揃えて敬礼した。


「諸君、しばらくぶりです。再びあなた達の司令官として任官した郷里です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、司令官」

「おかえりなさい」

「うちは戻ってくると思ってた!」

「待ちくたびれすぎたよ」

「ようこそ」


 五人の少女が代わる代わるに声を上げる。


 懐かし声、懐かしい顔、そして大切な場所。


「司令官っ!」


 トキが郷里の首に飛びついてきた。


「あ、トキ。ズルい!」


 ハナがトキを引き剥がそうとして郷里の腕に手を回す。


 郷里はどうしたらいいのか困って、他のメンバーの顔を見た。


 すると、ウメがタエとキヌの背中をおもいっきり押した。


 タエとキヌはバランスを崩して郷里にしがみつく。


 最後にウメがその上からかぶさるように抱きついてきた。


「ねぇ、司令官って子供いるの?」


 肩から腕にかけてぶら下がりながらトキがそう聞いてきた。


 突然、なんでそんなことを聞かれるのかまったく理解が出来なかった。


「こら、直接すぎ!」


 ハナが声を上げる。


 郷里は困惑しながらも、嘘をいう必要もないので素直に答える。


「え、いや。子供はいません。結婚できないので」


 郷里がそう答えるとキヌが目を丸く開いて大きなの声を上げた。


「どういうことですか? そんなの差別じゃないですか。どんな種族でも平等に権利があるべきです!」


 キヌの声に、他のメンバーは、「そうだそうだ」と同調する。


「いえ、まだ結婚できる年齢じゃないので」


 郷里がそう答えると、ラブ・ストライクズのメンバーはピタッと黙り込んだ。


 静々と、郷里に抱きついていた身体を離し、居住まいを正す。

 その表情にはそれぞれ困惑、不安、疑問、驚愕、無表情が表されていた。


「どういうことか意味がわからないのですけど」


 タエが背筋を伸ばしてそう尋ねてきた。


 郷里にはなぜこんな事にこだわるのか、何が問題になってるのか、この微妙に不機嫌そうな空気は何なのか理解できないでいた。


「司令官っていくつなの?」


 トキが細い首をクリっと傾けて尋ねる。


「少年促成プログラムの第一期生なので17歳です」


 局地的に地震でも起きたかのようにラブ・ストライクズのメンバーはグラっとバランスを崩して倒れた。


「17歳!? 司令官、17歳なの?」

「はい。ハナさんの2つ上です」

「年下でしたのね」

「はい。ウメさんよりも下です」

「だから敬語だったんですか?」

「そうですね。ウメさんだけに敬語というのもおかしいですし。もちろんタエさんやみなさんに敬意を抱いてのことです」

「17歳って、人間で言うと何歳のことなんですか?」

「いいえ、キヌさん。人間の17歳です」

「3年後もおじいちゃんじゃないの!?」

「そうですね。3年後は20です。まだまだ若輩者ですが」


 このやりとりは一体何なのだろう。


 そう郷里が思っていると怪獣出没の警報が鳴った。


「ラブ・ストライクズの諸君、出撃準備です」


 ラブ・ストライクズのメンバーは郷里を見て笑顔で頷いた。


「「「「「はい! 司令官!」」」」」



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五里霧中ヒロインズ 亞泉真泉(あいすみません) @aisumimasen

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