第36話
作戦司令室は花が飾られ、紅茶とケーキが用意されていた。
タエは少し心が落ち着かず、立ったり座ったりを繰り返していた。
「ん」
そう言ってハナがタエに自撮りモードのタブレットを渡してきた。
「ありがとう」
タエはそれを受け取ると、いろいろな角度から見て髪や表情をチェックする。
「参っちゃうよね。人気爆発すぎて」
「あんまり調子に乗らない方がいいわよ」
「おやおや、そんなこといって。それはなに?」
ハナはタエの髪についた蝶のヘアピンを指す。
「これは、ちょっとした、アレよ。別に変じゃないでしょ」
「うん、かわいいよ」
「かわいいとか、そういうのは別にいいから。普通だから」
タエはヘアピンを手のひらで隠してそう言った。
「さすが切り裂き姫の異名を取るだけのことはある。よっ! 姫!」
「別に自分で名乗ってるわけじゃないもの。勝手につけられて私だって困ってるわよ」
タエは目の周りがカッと熱くなるのを感じて顔をそらす。
トキがソファにゴロゴロしながらゴロゴロした豆を袋からボリボリと貪って言った。
「それを言うならキヌチャですわ。なんたって弾丸特急ロケット娘!」
「あれは違うんです! 別にそういう技じゃないのに」
「もうダメだよ。ファンはあれを待ち望んでるから。毎回やらなきゃダメだね」
「ヒヨヨ。絶対嫌です。すごい怖かったんですからぁ」
キヌがタレた目を潤ませてタエにすがるような視線を送ってくる。
そんな顔されたところで、タエにはどうすることもできない。
ハナは椅子にだらしなく座りながらファンレターを読む。
その姿はファンレターを送ってくれたファンには見せられないだろう。
「恋人いるんですか、なんて聞かれちゃったよ。そういうのってどう答えたらいいんだろ」
ハナがそう言うと、キヌが顎に指を当てて答える。
「好きな人はいます。とか言うのもダメですかね」
「いるの? 好きな人?」
トキがそう聞き返すと、キヌはものすごい勢いでまばたきを繰り返し頭を振りながらトキの肩を叩いた。
「痛い! あ~ん、キヌチャがぶった! ロケット娘がぶった!」
トキが大げさに訴える。
ウメがトキの肩に手を置いて言った。
「痛いの痛いの……」
そのままウメはトキを見つめるとすっと立ち上がる。
「えー! 飛ばしてよ! どこか遠くに痛いの飛ばしてよ! なんで封印したの!」
ハナはそのやりとりを見ながら爆笑し、すぐに髪が乱れていないかチェックをしていた。
「でもいいよねー。みんなは結婚できるんだもん」
「年齢的にってことですか?」
キヌがそう返したことでタエはハナの発言の意味を理解した。
ハナは15歳、トキは13歳だ。
結婚は男は18歳、女は16歳と法律で決まっているのでそのことを言っているのだろう。
でも、法律が認めるからといって、結婚できるかというとそんなことはない。
思い返せばタエも16になる時は、結婚できるかどうかを強烈に意識したものだけど、実際になってみると、年齢なんかよりももっと色々大事なことの方が多いことに気付かされる。
「うちなんてあと3年だよ。待てないよ。相手がお爺ちゃんになっちゃうよ」
「そんなすぐお爺ちゃんになるわけないでしょ」
「というより、結婚してるんですかね? 子供とかいるんでしょうか」
トキの言葉にハナとキヌが答え、その後に妙な沈黙が訪れた。
沈黙を破ったのはハナだった。
「誰が?」
そうは言ったもの、みんなは意図的にその疑問はなかったことにして話題を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます