私が処刑されるまで
ある日突然、私はその世界に生まれ落ちた。前世の記憶を保持したまま、赤ん坊になっていた。
生まれ変わって新たな人生をスタートさせた私は、毎日を順調に過ごしている間に自分が生きている世界について色々と理解していった。
前世で過ごしていた世界とは全く違っている、ということ。文化や技術、食べ物や知識など、生きている世界の根本から違っていることに。
これから先、私の身に何が起ころうとしているのかという事も分かってしまった。
というのも、自分がいま置かれているような状況に既視感があった。前世の記憶を思い返してみると、とある大人気ゲームの設定やシナリオに状況が酷似しているかもと思った。
それから色々と振り返ってみた。公爵家の令嬢として生まれ変わった私。生まれたときから、王子と婚約している関係。その王子の名前は、ゲームの人気キャラクターとしてハッキリと覚えていた。それでゲームの世界に転生したんだと確信した私は、自分の名前も登場人物と一致することを思い出した。
その登場人物が活躍するシーンを思い出したことによって、絶望する。
私の知っているゲームのシナリオ通りに進んでいくのであれば、そのキャラクターはシナリオの中盤から主人公の人生に密接に関わっていくライバル的な存在となる。そして、ゲームの内容を盛り上げていくための悪役として活躍する事になる。
シナリオを進めていくと、ライバルとして色々な勝負を仕掛けていくことになる。学力、貴族のマナー、料理対決などなど。その勝負に負け続けてプライドを削られたライバルは、過激な報復に出てしまう。それが婚約者の王子にバレてしまい、手痛い罰を受けることになる。進めるルートによっては、死刑を宣告されることも。
そして主人公はライバルキャラに勝ち、ライバルの代わりに王子と結婚することになって、新たな王妃としてハッピーエンドな人生を送ることになる。
ゲームをプレイした時は、主人公が幸せになれてよかったという気持ちがあった。嫌な性格のライバルが報いを受けて、スカッとした。だが、その報いを受ける立場に立たされた今、なんとしてでも私が不幸になるようなシナリオは回避しなければならない。
そうしなければ私は、15歳の時点で将来の幸不幸が決まってしまう。あるいは、その先の人生を生き続けられるかどうか。死んでしまう可能性も。
私は、15歳以降も生き残りたいという一心で15年間、清く正しく生きてきた。ゲームに登場した彼女は、プライドが高くて負けず嫌いという性格だったから主人公にちょっかいを出して返り討ちにあってしまった。だから私は、その点に注意をして生きることを第一目標に。
それでも駄目だった場合に備えて、色々と生き残るための方法も模索してきた。様々な計画を立てて、なんとか幸せを掴んで生き残るための準備を進めてきたつもりだった。
それなのに結局、ゲームのヒロイン役だと思われる女性には王子を奪われて、私は処刑されるルートに一直線で突き進んでしまった。
主人公でヒロインである女性との接触は、極力避けてきた。王子との関係も注意し維持しつつ、普通に生活してきたはず。なのに私が処刑されるという結果になった。そうなることが確定していたかのように、シナリオは避けられなかった。それが私の運命だったらしい。
もしかすると処刑されるかもしれないと想定していた私は、身代わりとして作った魔法製の人形を用意しておいた。使うことはないだろうと思っていたが、結局は使うことになってしまった魔法アイテム。その人形を身代わりに使って、処刑されることなく生き残ることが出来た。
ただし、15年間の時間を掛けて生きてきた私の人生は処刑が執行されて、それでおしまい。
身代わりの人形を使うことにより、世間で私は死んだものとされる。けれども私は生き続ける。
その日から、私は別人として生まれ変わることになるということだ。前世の記憶を引き継いで今の世界に生まれ変わった私は再び、名前と生き方を変えて新たな人生を歩むことになった。
生きているだけで儲けものだ。転生も一度経験しているので、人生を変えることは苦じゃない。貴族の暮らしは楽だったけれど人間関係は少し窮屈だったし、一般市民という生き方のほうが自分の性に合っていると思っていた。
今日から私は、三度目の新しい人生に突入した。
生まれ育った国からも離れることにする。15年間の生きた思い出があるけれど、新たな人生をスタートさせるためには別の国に行ったほうが良さそうだと判断して。
少しだけ両親の事を想って、申し訳なく思った。私は罪人として死んでしまった。それで色々と彼らに迷惑を掛けるだけだろうから。だけど、公爵家にはしっかり者の弟が跡継ぎとして居るので安心ではある。
弟は、ゲーム内に登場したキャラクターの中では一番の切れ者という設定があったはず。ゲームのシナリオとは違って、私は冤罪を着せられて処刑された。弟がゲームの通り優秀ならば事実確認を行い、私が無実だったという真実にたどり着いてくれるかもしれない。
王子が、公爵令嬢を事実無根の罪で殺したという出来事。そんな不名誉な出来事を王族に対しての武器として活用してくれたなら完璧だ。
その国で死んだ私は、もうこの国に戻ってくることもないだろう。そう思いながら旅に出た。
生まれてはじめての、異世界での一人旅だ。実はかなり楽しみだった。その世界に関する知識は色々と調べて学んできた。自衛のために魔法の技術も習得。危険を回避できるように鍛えてきたから一人旅でも問題ない。私の足取りは、とても軽かった。
それから、10年の月日が過ぎた。
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