後編

「何て? 俺の聞き間違いか?」


 全くの予想外言葉に翼は思わず聞き返してしまう。

 「私と兄さんは夫婦です」と妹から言われたら誰だってそうなる。

 ただ、いくら記憶失っている翼であるといえども、今のが嘘だということはわかった。

 高校二年生の男性はまだ結婚することは出来ないのだから。


「聞き間違いじゃないです。私と兄さんは結婚しました」


 未だに真っ赤にしていても、心愛が否定することがない。


「いや、日本で男は十八歳未満は結婚でき……」

「兄さんは記憶が混乱していてわからないでしょうから知らなくても仕方ないですね。今年から男性も十六歳以上で結婚出来るようになったんですよ。夏休みに私が十六歳になったので、籍を入れたんです」


 確かに学生証には生年月日は八月と書かれていて十六歳になったが、いくら何でも無理矢理すぎる。

 その証拠に冷静な言葉の割に、心愛は冷や汗をかいていて視線が少し泳いでしまっいるのだから。

 確実に嘘だろう。

 翼からしたら何言ってるの? 状態だ。


「本当は兄さんが思い出してくれるまで黙っているつもりでしたが、思い出してくれそうにないので言いました」


 本当に意味不明であるが、一つだけわかったことがある。


「心愛は俺のことが好きなのか?」


 好きでなかったら夫婦何て言うことはないし、心愛は翼のことが好きということになるのだ。


「はい。好き、ですよ……」


 目線を合わせて話すことが出来ないようで、心愛は下を向きながら恥ずかしいそうに言う。

 記憶をなくしている翼は理由がわからず、頭の中で何で? となる。


「兄を好きになるものなのか?」

「シスコンの兄さんが何を言ってるんですか?」


 確かにシスコンであるなら翼に何か言えることでなない。

 ここまで言われているにで記憶はないが、翼は重度のシスコンなのだろう。


「俺を好きになる要素がわからないのだが……」


 はっきり言って翼はイケメンの部類には入らない。

 見た目が悪いわけではないが、どこにでもいるような普通の顔だ。

 一方心愛は誰もが見惚れるような容姿をしているためにモテることが予想でき、彼氏なんて選びたい放題だろう。


「兄さんは施設から引き取られて周りに馴染めない私にずっと寄り添ってくれました。家族の温もり、楽しさを沢山教えてくれたんです。好きになってもおかしくありませんよ」


 その時のことを思い出しているかのように、心愛は目を閉じて言葉にする。

 とても嘘言っているようには見えず、昔から翼はシスコンだったのだろう。

 もしかしたら一目惚れして仲良くしたいと思ったのかもしれない。

 今でも物凄い心愛のことを可愛いと思っているのだから。

 結婚したというのは嘘だろうし、住民票などで本当にしているか確認することが出来る。


「心を開いた私は兄さんと結婚したいって言うようになりました」

「そうなの?」

「はい。中学に上がる直前くらいには恥ずかしくて言えなくなりましたけど……」


 思春期の女の子に兄が好きって言う人は少ないだろう。

 どうやら心愛はは恥ずかしくなると素直になれない女の子のようだ。

 でも、今が告白する絶好の機会だと思っているのか、今までの気持ちを想いを伝えようとしている。

 夫婦になったと嘘をついてまで告白してきたのだし、心愛はそれほどまでに翼と結婚したいのだろ。

 法律上は義理の兄妹なら結婚することが可能だ。


「でも……やっぱり私は兄さんことが好きなので、誕生日に結婚したいと言いました。そしてゴールインです」


 間違いなく誕生日に結婚したいと言ったのは作り話だろうが、本気で心愛の想いが伝わってくる。

 好きで好きでしょうがないといった気持ちが言葉を介して翼の心を突き刺す ずっと密かに心の中で想っていたのだろう。


「俺を好きになってくれてありがとうな」

「いえ、あ……」


 手でチョイチョイと手招きすると椅子を寄せてきたので、翼は心愛の頭を撫でた。

 想いを告白したからか、頬赤くしながらも心愛が抵抗することはない。

 前だったら恥ずかしがって止めてくらいは言われていただろう。

 いや、間違いなく言われていたと断言出来る。

 今は少し素直になれたということだ。


「てか、父さんと母さんは何て言ってたの?」

「もちろん了承してますよ。嘘だと思うなら確認取ってもらっても構いません」


 つまりはもう丸め込んでいるということだ。

 娘を溺愛している親バカなのが予想でき、どこぞの馬の骨にやるよりかはとか言ったのだろう。

 息子には放任主義くせにと思い、翼は「はあ~……」とため息をつく。


「俺は多分二度目の一目惚れをしたんだろうな」

「兄さん?」

「俺が心愛を溺愛しているのは本気で好きだからなんだと思う」


 心愛との過去はほとんどわからないが、何かしら想いがないと心を開いてくれるまでずっと寄り添うなんてことしないだろう。

 だから翼は心愛に一目惚れしたんじゃないかと考えた。

 そして今も……記憶がなくなったから同じ相手に二度も一目惚れ出来たのだ。


「だから心愛は誰にも渡さない」

「はい。もう結婚してますから私は兄さんのものですよ」


 両想いだとわかったのに心愛は結婚していることにしたいらしい。

 結婚出来る年なんてスマホで検索かければ一発で嘘だとわかるが、ここはあえて調べないようしようと翼は心の中で決めた。


「兄さん、大好きです」

「ああ」


 ゆっくりと顔を近づけていき……


「んん……」


 恐らく生まれて初めてのキスをした。

 心愛の唇はとても熱くて柔らかく甘い味がする。

 記憶はまだ戻っていないが、一緒にいる内に思い出していくだろ。

 その時に改めて告白すれば良い。

 心愛はそれまで待ってくれるはずなのだから

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事故で記憶をなくしたら妹が「私と兄さんは夫婦です」と言ってきて結婚したことにしようとしてくる しゆの @shiyuno

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