事故で記憶をなくしたら妹が「私と兄さんは夫婦です」と言ってきて結婚したことにしようとしてくる
しゆの
前編
「兄さん、まだ無理しないでください」
「大丈夫」
病室のベッドの上で横になっている
翼は先日事故に遭ってしまい、今は入院している。
入院患者が着る病着を身につけ、腕には名前や生年月日、情報読み取るバーコードが書かれたリストバンドをつけている。
でも、怪我という怪我は右肘の骨折くらいで、数日たてば退院出来ると先生に言われた。
車に轢かれるという大事故であったが、腕の骨折だけで済んだのは運が良かっただろう。
もう病室から出て病院内であれば自由に動けるし、翼は退院までのんびり学校を休むつもりだ。
夏休みが終わったばっかりで学校は面倒だと思っていたのだから。
ただ、ひとつ問題があって……
「それにしてもこんなに可愛い妹がいるとは思わなかった」
翼は事故のせいで一部の記憶を失ってしまった。
頭は打ったものの脳に異常はなく、事故のせいで一時的に記憶を失ってしまったんじゃないかと先生は言っていた。
事故のせいで記憶を失ってしまう人はたまにいるようで、肉体的と精神的ショックがあってなるらしい。
記憶が戻る人も多く、翼もその内思い出すことが出来るだろう。
でも、目の前にいる彼女──
妹と言われて驚いた翼であるが、実際に学生証で名前を確認させてもらったから間違いないだろう。
年齢は翼の一つ下で高校一年生だ。
家族であるし、なるべく早く思い出したい。
「かわ……まだ思い出していないのですね」
可愛いと言われ、心愛の顔が赤くなる。
言われなれていそうなくらい可愛い容姿をしているが、そうではないのだろうか?
兄に可愛いなんて言われても嫌な気持ちになるのかもしれない。
翼が勝手に思っているだけなので、何で心愛が顔を赤くしたのかはわからないが。
顔を赤くしている心愛は物凄い可愛く、思わず見てしまう。
サラサラとした腰まで伸びている黒のストレートヘアーは艶があって綺麗だし、ライトブラウンの大きな瞳、透けるような白い肌は誰もが見惚れてしまうだろう。
もしかしたら学校一の美少女なんて言われてるかもしれない。
それほどまでに容姿は整っており、兄である翼さでさえも見入ってしまうほどだ。
「思い出せんな。それに俺たち全然似てないぞ」
髪の色は同じだが、それ以外はほとんど違う。
男女で違いはあれど、血の繋がった兄妹であれば多少なりとは似るのもだ。
似ていないとすれば答えは一つ……。
「私たちは義理の兄妹ですから」
「そうか」
つまりは血の繋がりがない兄妹だということだ。
両親は翼と血の繋がりがあって再婚ではないため、心愛は施設から迎え入れられたのだろう。
「にしても右手が不便だ」
患部はギプスをつけ包帯で巻かれ、動かすことは出来ない。
全治一ヶ月と言われたし、動かせるようになるまで時間がかかってしまう。
ご飯とか食べにくくて仕方ない。
「しょうがないですね。骨折が治るまで私がサポートしてあげますから」
「よろしく頼む」
両親は長期主張で家にいなく、しばらくは心愛に色々と面倒を見てもらうしかない。
一応、事故にあった時に両親は駆けつけてくれたが、命の心配はないとわかって仕事に戻っていった。
仕事をあまり休むわけにはいかないししょうがないだろう。
「心愛ってクールなのな」
心配はしてくれているようだが、基本的には兄である翼にも丁寧な言葉遣いで表情はあまり変わらない。
「そうですかね? まあ、兄さんがどうしようもないシスコンだからこんな性格になったのかもしれません」
「俺ってシスコンなの?」
「はい。それはもう重度のシスコンで私に溺愛ですよ」
心愛の言葉を聞いて翼は「マジか……」とうなだれる。
義理とはいえ兄に溺愛されてしまったら、妹は多少なりとも冷たくなってしまうだろう。
高校生となると普通は兄離れするものなのだから。
「でも、少しは感謝してます」
「何て?」
小声で言われたため、翼は聞き取ることが出来なかった。
心愛は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、「何でもありません」と言う。
良くわからなくて頭の中にはてなマークが浮かぶが、答えなそうなのでこれ以上詮索はしない。
誰にだって言いたくないことの一つや二つあるものだ。
「兄さんって本当に一部の記憶がないんですよね?」
何故か確認するかのように心愛は尋ねてくる。
翼が頷くと心愛は「そうですか」と呟き、ゆっくりと深呼吸をして真剣な顔で見でつめてきた。
これから真面目な話でもするのかもしれな。
この病室は四人部屋だが、今は翼だけしか入院していなからどんな話でも問題はない。
事故について何か言うことがあるだろうか?
あまりにも真剣な表情に、翼は思わず息を飲んでしまう。
「私と兄さん兄妹でもあるんですけど、それと同時に私と兄さん夫婦でもあるんです」
顔を真っ赤にし、そんなことを心愛は言い放つのだった。
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