かいぶつのがっこう

あにょこーにょ

かいぶつのがっこう

学校から帰ったら、私の部屋に誰からか分からない、手紙が置いてあった。




「私の学校は、かぼちゃ頭や、化け猫、魔女がいる。廃墟みたいに薄暗くて、息を止めて過ごすようなとこ。私の行きたくないところ。」

そう、おかーさんに言ったら、

「うーん?よくわかんない」

って。

私、その言葉聞いた時、おかーさんに怒ったからじゃないし、傷ついたわけじゃないけど、なんか、目からぽろぽろ涙がこぼれたよ。 

学校のおはなしする時、みんなが笑ってたこと話すんだけど、楽しいこと言ってるはずなのにこわくなるの。


でもね、ここで会えるあなたにはうまく喋れそう。


私は、怪物の子が通う学校に通っているの、なんか、感情が流れ出て混ざり合ってるみたいな、そんな、ところ。

教室の中ではやけに高い声の笑い声や周りを気にする目や部外者を絶対に入れないような密着感がある。

だから私はね、静かに静かに過ごす。

でもね、その内部に入れない私ってなんだろう、なんでみんなみたいになれないんだって。

私は大丈夫、大丈夫ってずっと言い聞かせているけど、ときどきね、こんなの、大多数から見たら異常なんじゃないか、って思うから。




今日ね、国語の時間に後ろから、ふぉん、って机をひきずって

化け猫の子が、

「ねぇ、めあちゃんは何が好きなの?」

って聞いてきた。

めあちゃんってのは、私の名前。

私、話すの苦手だし、話しかけられること少ないからね、とってもドキドキして、机の中目に入ったから、

「えっと、えっとね、本読むこと。」

そう言ったらね、ふーんって言われてね、お話おしまいしたの。



こそこそ、くすくす、

その時に、私、見ちゃったの、



そう、めあちゃんという少女が話すのを止めたから、ぼくは、咄嗟に何を?と聞こうとしてやめた。

めあちゃんの顔を見て多分、多分だが、少女の見たものは、微かに笑った目と少し開かれた口から覗く薄暗いもの。まわりの人形みたいに冷えた表情。そういうもの、みたんだろう。

おんなじ経験をしてきたから。だから分かる。



ぼくは代わりに、何も言わずに背中をさすっていた。今日初めてあったはずのこの少女にはよくわからない懐かしさ、親しみを覚えた。


めあちゃんは、ぽつぽつ文字、単語、文章を並べていく。


そ、そのあ、と、かんがえたの。

私の、ことについて。

すきなもの、きらいなもの、答えられないの。

なんか、薄っぺらい白紙みたい、な。

みんなを見てこなかったから、お話うまくできないから、だから答えられないのかな、



私、周りみたいにふつうに学校を楽しみたかった。ふつうでありたかった。


勉強はなんかすきだよ。でも、そのせいでふつうでいられなかったのかも。


これまでもそう。

得意なこと、みんなから飛び出ちゃうと海の波が高く、高くあがるみたいに穏やかではいられなくて、逃げ場がないの。


痛くて痛くて、だけどうまく言えなくて。

しんぞうから血が流れ出てるようで、余計におそろしくって。


ある日、かぼちゃ頭の子と隣になったことがあったんだ。


かぼちゃ頭の子はあたまわるくって、いつもせんせに怒られてるんだけど、私知ってるの、実はあの子かぼちゃ頭のその奥で、まわりをキョロキョロってして空気読んでわざと頭悪いフリしてること。


「お前さ、もっとうまくできねーの?」

ぼそっと言ったの。やっぱり!やっぱりフリだった!って思ったけど、それ以上にふつうになれる方法聞ける気がして

「どうやればいいですか。」

って同級生なのに敬語つかっちゃった。

「とりっく、おあ、とりーと。しらないの?」


意味わからなくって、でもどうゆーこととは聞けなかった。



ねぇ、意味わかる?

そう訊かれて、なんとなく分かるのだけど、どう答えたら伝わるか、悩んで、ぼくは、

「めあちゃんは、トリック・オア・トリート

ってどう言う意味かは分かる?」

「お菓子くれなきゃいたずらするぞってことでしょ?それは知ってる。」

「じゃあね、なぞなぞみたいなヒント。

めあちゃんの周りの子が欲しがってるもの、それはなんでしょ、うか?」


はっと、少女は大きく目を開いてぼくの方を見ていた。


その目には驚きと迷いのなさを感じた。

喋り出した頃からいくらか大人になって、

めあちゃんは、

「じゃあさ、それって正しいのかな、自分たちだけで楽しんで、傷つける、それは面白いことなのかな?」





そう言った時にはもう、めあのそばにあるのは、いつもの学校の鞄と、お母さんが作る夕食の匂いだけで、めあの話を聞き、助言をくれた"ぼく"はいなくなっていた。


18歳。高校卒業。ぼくは、めあ。

最近、気づいたことがある。

私も、他の人に欲しいものを貰えなくって傷つけてきたのかなって。

あの時の私と"ぼく"との会話、今でもよく思い出すんだ。

かいぶつの学校、あそこの空気は当然苦しかった、でもね、必ず終わりは来るんだね。


めあちゃんへ。


頑張ろうとしなくていい、無理に笑う必要もない。先生は仲良くしなさい、なんて言うけど別に我慢して仲良くしようとしなくたっていいんだよ。たぶん、仲良い人欲しいけど。

傷がついていったあなたは、前よりももっと素敵に磨かれるから。

未来のあなた、そこに助けを求めてみて欲しい。



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かいぶつのがっこう あにょこーにょ @shitakami_suzume

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