第70話 にせもの が あらわれた

「『魔王染め』にライバル??」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 膝の上のリズリスが驚いて、耳を立てる。

 なに? なに? という感じで、周囲を見回し、びっくりしていた。


 チッタとは違う幼獣のリズリスだ。

 冬の雪が積もった森の中で、チッタが見つけてきた。

 かなり弱っていたので、ルナが治療し、今は俺の元でスクスク育っている。

 ちょっと甘やかしすぎて、太り気味だけどね。


 日本にいた時からペットがほしかった。

 特にチッタみたいなモフモフで可愛い小動物が。

 だから、ルナが羨ましかったのだ。


 これ幸いと世話を尽くしているのだけど、最高だ。

 モフモフをいつでもどこでも堪能できるし、こうして膝の上においておくと、とても温かい。


 寒い暗黒大陸の冬にはもってこいだ。


 そう。

 ついに暗黒大陸に冬がやってきた。

 黒い土の上でも、そこに積もる雪の色は、日本にいた時と何ら変わらない。

 生命の息吹が完全に停止していても、一面白く染まった景色は、十分俺の胸を打つものだった。


 思っていたよりも寒くて大変だけど、今のところ凍死者は出していない。

 食物の貯蔵は万全。

 耐寒を意識させた建物は、隙間風が激しい元の村の住居とは違って、快適だという。

 今年、無事に越冬できそうだと、ソンチョーも満足顔だった。


 そしてマナストリアも、もうすぐ新年を迎える中、静かに過ごしたかった俺の元に、あまり良くない報告が持たされた。


 シーモンク族が海路を、トロル族が陸路を、という風に販売が始まって1ヶ月しか経っていない。


 なのに『魔王染め』と似たような商品がもう出回り始めているという。

 作ってるところを聞いて、2度驚いた。

 あのデスエヴィル族が、自領で作り、販売しているようだ。

 商魂たくましいというのか。

 それとも、こっちの商売を邪魔したいのか。

 その執念は買わないとね。


「どうやら、私たちと同じ『宝石染め』をしてるみたいアル」


 メーリンは早速取り寄せたらしい。

 なるほど。

 なかなか綺麗な色だ。

 そしてこの色は間違いなく、ラピスラズリを粉砕して作ったものだろう。


 厳密には難しい『宝石染め』だけど、俺がやってる方法は、無地のTシャツに色を染めるやり方と同じだ。

 故に俺からすると、ダマがあったり、色が一定しなかったりするのだけど、こちらの技術では十分高価なものに見えるらしい。


 誰かパクると思ってたけど、1ヶ月か……。

 ちょっとマナストリアの職人を舐めてたなあ。


「名前も『王魔染め』っていうアル」

「もうそれって、パクってますって言ってるのと同じじゃないか。……それで売れ行きは?」

「そこそこ出てるアル。『魔王染め』が大人気すぎて、予約しても半年とかかかってるアルから、『王魔染め』でもいいかって買う人が多いみたいアルよ」


 うわっ!

 半年待ちか。

 ご愛顧いただいて嬉しい限りだけど、お客さんには申し訳ないな。

 なら『王魔染め』にっていう消費者心理はよくわかる。


 それにこの『王魔染め』。

 結構よく出来てるんだよねぇ。


「価格は?」

「うちよりちょっと高いぐらいアル」

「そうか」

「でも、膝の上でリズリスと遊んでるほど余裕ないアルよ」

「うーん。たぶん、余裕があると思うぞ?」

「どういうことアルか?」

「これは俺の予想だけど、もうすぐデスエヴィル族の領主が来ると思う」


 俺はまだ名前を付けていないリズリスの顎の下を撫でながら、預言した。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


今のところ小説家になろう限定ですが、

『300年山で暮らしてた引きこもり、魔獣を食べてたら魔獣の力を使えるようになり、怪我も病気もしなくなりました。僕が世界最強? ははっ! またまたご冗談を!』という作品を書きました。

日間総合の最高位2位。週間総合1位。月間でも只今9位となっております。

本作に負けず劣らず面白い作品に仕上がっているので、是非読みに来てくださいね。

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ボスは1人でいいと、魔王軍の裏ボスなのに暗黒大陸に追放されたので、適当に開拓してたら最強領地と嫁を手に入れた 延野 正行 @nobenomasayuki

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