休み明け

 夏休みが明けた。

 席替えが行われ、サユリは、アヤネの彼氏である男バスのシモオカの隣になった。


 シモオカはサユリがキョウヤだった頃の男バスの絶対的エースだった男だ。

 学年一位の秀才でもある。


 夏に今のキョウヤが躍進して、シモオカからエースの座を奪う形になっていたが、学年で不動のナンバーワン・文武両道の最上位互換であるシモオカのオーラは健在だった。


 とはいっても、今のサユリには劣等感は全くなかった。ただすごいなという感情だけだ。最近のサユリは、あまり勝ち負けに拘らなくなっていた。女バス同好会の活動を通じて、同レベルの子達と緩く楽しむ方が自分に合ってると思うようになったからだ。


 シモオカがサユリに言う。

「おっす、マネージャー。今学期はよろしくな」


「マネージャーいうな。

 善意で手伝ってるだけなんだよ?

 そういうこと言ってると、もう手伝ってあげないからね」


「悪りぃ悪りぃ。で、休み明けテストは大丈夫なの?

 夏休み中は、ヒラタ担ぎ出して猛勉強してたって話だけど。

 いつもみたいに赤点オンパレードとかだったらさすがに笑えないぞ?」


「大丈夫、今回はかなり自信ある」


「お前、それ前も言ってたよな? 全然説得力ないぞ」


「別にいーよ。高得点とって驚かせてやるから」


「あはは。あいかわらずだよな。ほんとマイペースでいいよな。

 そういえば、なんでいつもの体育委員しないで、図書委員になったの?

 そんなイメージ全くなかったからマジで驚いたよ。

 お前が読書してるイメージ、全く浮かばない」


「それ感じ悪いよ?

 まぁ、別クラスの子に誘われたからなっただけだけどね」


「ウエダ?」


「シノブもそうだけど、ミサキとエリも」


「女バス同好会か。仲良いよな」


「うん」


「廃部して同好会立ち上げて正解だったのかもな」


「私たちはそうだね。でも、その他の子はちょっとかわいそうだったな」


「自業自得だろ?」


「そうだけど、今後も学校で顔合わせるわけだから、気まずいよね」


「たしかにな。虐めとかあるの?」


「特にないよ。お互い無視しあってる感じかな」


「そうなのか、空気わるそうだな」


「そうでもないよ。

 いつも仲良しの子だけで集まってるからあまり気にならない。

 これでも他の集団や、孤立してる子に比べれば平和な方だよ?

 男子には理解できないかもだけど……」


「マジで? 女子怖いな」


「男子が単純なだけ」

 


 ……



 休み明け試験の結果は、上々だった。


 サユリはキョウヤだったころの成績を維持、シノブもそこそこ上位に食い込んだ。

 肝心のキョウヤは、付け焼き刃ではあったが、猛勉強の甲斐があって、サユリと同等の成績に到達できた。


 周囲はサユリとシノブが上位に食い込んだのに驚いていた。


 グループチャットでは、<スポーツバカのサユリが文武両道とかありえない>、<イメチェンの女子力半端ない>などのログが大量に流れていた。


 サユリはその代わりに、体育ではズバ抜けた成績が出せなくなっていた。


 女子としては優秀な方だったが、以前のイメージが強烈すぎたため、スポーツ女子のイメージは、徐々に薄れていった。


 髪を伸ばし始め、髪をまとめるようになってからは、さらに女性的な印象が強くなり、今では、普通の女子にすっかり溶け込んでしまっていた。小麦色の肌もすっかり白くなったので、それも影響しているのだろう。


 女子の文化にもすっかり馴染み、単独行動が激減したため、男子と気軽に話す頻度もかなり減った。

 いつもの調子で男子に話しかけると、他の女子と同じように恥ずかしそうに対応されることが増えたので、最近は声をかけづらくなってしまった。

 さらに、動画や漫画、本、雑誌、音楽、ファッションやコスメなどの趣味も他の女子に合わせていくうちに、男子と話がまったく合わなくなってしまい、男子との接点はほとんどなくなってしまった。

 彼氏もちの女バス同好会のメンバーの方がずっと男子の事情に詳しい状況になってしまったのだ。



 恋愛関係は、みんな順調なようだった。

 特にキョウヤとハヅキは、意外に相性が良かったらしい。

 今ではすっかりラブラブだ。

 サユリもシノブと順調に愛を育んでいる。



……



 サユリは、シノブとハヅキと一緒に、スイーツカフェにいた。


 ハヅキがサユリに質問した。

「今更な感じだけど、サユリは、男子でいるのと女子でいるのどっちが好き?」


「女子にきまってるじゃん。もう男子とかありえない」


「だと思った。でも、生理現象は女子のが辛くない?」


「そんなことないよ。女子の生理のがずっといい。辛いけどね。

 男子の生理現象は、背徳感がすごいの。苦手だった」


「そうなんだ。サユリは、やっぱり女子向きだったんだね」


「うん。ヒラタは男子向き?」


「もちろん。女子の生理から解放されて人生を謳歌してるよ」


「あれがいいとか、ちょっと信じられない……」


「そんなに酷いの?」


「うん。悪いことしてる気分になるの」


「そうなんだ。……男子ってエロいもんね」


「だよね。ついていけなかった。ほんと、女子になれて良かったよ。

 もしかしてヒラタもエロくなっちゃったの?」


「うーん……健全な男子ではあるね。

 たしかにエロいし、それがあたり前だと思ってる感じはあるね」


「そうなんだ……。

 私とは完全に別世界にいるんだね」


「対照的に、サユリはすっかり女子に染まっちゃったよね」


「まーね。今はそれが普通に嬉しい」


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