陽だまりの中の猫

雨世界

1 頑張れよ。(うん。頑張るよ。……君がいなくてもね)

 陽だまりの中の猫


 登場人物


 大原太陽 幼馴染の男の子 ずっと一緒にいるよ。


 木原小咲 幼馴染の女の子 ずっと一緒にいようね。


 プロローグ


 好き。


 本編


 頑張れよ。(うん。頑張るよ。……君がいなくてもね)


 初詣の日


 ……会いたい人がいるんだ。


 小学生時代


 ある日、冬の冷たくて透明な青色の空の下で、桃色の美しい着物を着た、晴れ着姿の君の見て、僕は君のいる景色から目をそらすことができなくなった。


「うん? どうかしたの?」木原小咲はにっこりと笑って、大原太陽にそう言った。

「ううん。なんでもない」と顔を背けて、太陽は言った。


 大原太陽と木原小咲は幼いころからの知り合い同士だった。家が近所で、親同士の仲が良くて、だからこうして一緒に、どこかにお互いの家族同士で出かけたりすることは、当たり前のようによくあることだった。


 太陽にとって、小咲が隣にいることは、すごく当たり前のことだった。


 だから、なんで自分がこんなに、いつも一緒にいる小咲の姿を見て、心臓がどきどきしているのか、あるいは、心がすごく緊張しているのか、その理由が小学校五年生の太陽には、よくわからなかった。


 卒業式の日


 ……君はいつも、僕の隣で本当に幸せそうな顔で笑っていたね。 


 中学生時代


「なに見ているの?」

 にっこりと笑って、太陽のいる隣の席に座っている小咲は、ずっとつまらなそうな顔をして、教室の窓の外を見ている太陽に向かってそう言った。


「……別に。空見ているだけだよ」と太陽は言った。

「空になにかあるの?」と小咲は言った。


「なんにもないよ」と、ようやく小咲のほうを振り返って言った。

 すると、そこにはちゃんといつものように、小咲いた。(小咲はいつでも、太陽のそばにいてくれた)


 小咲はにっこりと笑って、太陽に「ねえ、卒業式のあと、どうする? どこかに一緒に食事に行く? いつもみたいに、お互いの両親と一緒に、みんなでさ」


「どのお店にいくの?」

「お好み焼。初春さん(お好み焼きやさんの名前だ)のとこ。食べに行こうよ。小学校のときと同じようにさ」


「いかない」と太陽は言った。

「なんで?」と、とても不満そうな顔をして小咲は言った。


「行きたくないから。僕は、帰るよ。家で、本でも読んでる」と、つまらなそうな顔をして、太陽は言った。


「そんなこと言わないでよ。一緒にみんなでご飯食べに行こうよ。絶対に楽しいよ。絶対にご飯。美味しいよ」と小咲は言った。


 太陽はあんまり家族同士の食事会には、参加したくはなかった。でも、小咲があまりにも悲しそうな顔をするから、「わかった。いくよ」と言って、その食事会に参加をすることにした。(太陽が食事会にいくというと、小咲は本当に嬉しそうな顔をした)

 そうして、太陽は、ふた家族みんなでお好み焼を食べて、(お好み焼きは確かにすごく美味しかった)小咲と一緒に同じ小学校と同じ中学校を卒業して、……そして、小咲とは別の高校に進学した。


 太陽はわざと小咲とは違う高校を進路に選んだ。


 そして太陽の、たった一人の孤独な高校生活が春から始まった。それは、太陽が自分から求めた、新しい(あるいは自分らしい)生活の始まりだった。


 太陽の新しい生活。


 それはつまり、幼馴染の木原小咲のいない、生活のことだった。(それは木原小咲にとっては、太陽のいない生活の始まりでもあった)

 

 ……あなたは私の(すごく安心できる)陽だまりだった。

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