第2話 まず手始めに、顔見知りに挨拶をして ★
セシリアが母と共に会場へと足を踏み入れると、既に多くの貴族が社交を始めていた。
そんな中で彼女が最初に思ったことといえば。
(どうやらこのパーティー、出席者に決まったテーブルの割り当ては無いみたい)
という事である。
テーブル自体は会場内に用意されている。
しかしザッと見る限り、仲良しグループでテーブルに着いて長話に興じる者もいれば、テーブルを渡り歩く者もおり、そうかと思えば立ったまま話に花を咲かせている者達も少なからず居たりする。
どうやら皆、割と思い思いのスタンスでこの時間を過ごしている様だ。
そんな面々の間を、セシリアはクレアリンゼの後について、まるで縫う様に抜けていった。
そうして辿り着いた目的地は、家族ぐるみの付き合いがある貴族達の所である。
個人同士の付き合いならば未だしも、家同士の付き合いがある家の数は元々そう多くない。
その上、今回の社交に顔を出している家となると、その数は更に減る。
その数、僅か1家。
これは、ヴォルド公爵とモンテガーノ侯爵が諮った結果なのか、それともただの偶然なのか。
真実は闇の中だが、思わず勘ぐってしまいたくなる数字ではある。
しかし、まぁ。
(どちらでもいいか、そんな事)
セシリアは、自分の中に浮かんだ疑惑を、そんな言葉と共にポイッと捨てた。
もしもこれが謀の結果だとしたら、その意図は『こちら側の味方を減らす為』だろう。
だが、セシリアはそもそも、今回この場で『味方』に何かを求めるつもりは無い。
つまりセシリアにとって『味方』がこの場に居るか居ないかは、談笑相手が増えるか否かの差でしかないのである。
そして今回セシリアは、談笑ではなく社交をしに来たのだ。
そう思えば、談笑相手の数に大した意味を感じないのは当然と言えば当然だった。
しかしそれでも、談笑するのならするでそれなりの礼儀というものがある。
それがこの場に来た目的では無いとはいえ、おざなりにする訳にもいかない。
という訳で、セシリアは事前に母親から見せて貰っていたこのお茶会の参加者名簿の記憶の中から、当該人物の名前を思い出す。
これから会うのは、エクス子爵。
彼らとセシリアは、社交界デビューの日に一度挨拶を交わしている。
そう、確か。
(「まだ社交界デビューをしていない子供がいる」って言っていた)
確かそれが子爵の初めての子供だった筈だ。
確か男児で、歳はセシリアよりも2つ下である。
などと、自分の脳内データベースからどんどんと関連情報を引っ張り出してきていると。
「こんにちは、エクス子爵」
クレアリンゼの柔らかな声が時だを優しく撫でた。
それを合図に、セシリアは思考の海から浮上する。
「あぁ、オルトガン夫人。遅かったみたいだね」
名簿に君達の名が載っていたから来て早々探したのに、まだ居ないんだもの。
なんて言いながら、子爵は2人の訪れを快く受け入れてくれる。
(相変わらず、気さくな人だな)
セシリアは、子爵に対してそんな感想を抱いた。
前の時もそうだったが、彼は貴族にしては珍しくあまり爵位を気にしていない様である。
でなければ、一応爵位的には上位の伯爵家夫人に対してこの様な口ぶりで話など出来はしない。
しかし子爵とて、何もどの貴族に対してもこんな態度ではない。
きちんと弁えるべきは弁えている、というのは王城パーティーの時にこっそりと自身の目で確認済みだ。
(結局、そう出来る関係性が出来上がっているからこその、この態度って事なんだよね)
そもそも我が家は爵位の上下関係を重視していない。
個々の繋がりを重視する考えだからこそ、きっと子爵とは馬が合うのだろう。
(流石は『数少ない家同士の繋がりがある家』という訳だ)
なんて、心中で独り言ちていた時だった。
「やぁ、セシリア嬢。王城以来だね。最近は元気に過ごしていたかい?」
彼の気軽なその声に、セシリアは思わずフッと笑ってしまった。
この言葉の裏の意図に、気付いてしまったからだ。
(「噂の影響で中々社交に出られなかったんだろう?」って言いたいんだ、この人)
そんな本音を全く隠そうとしない辺りが、なんとも子爵らしい。
そして。
(やっぱり流石ね。だって『オルトガン伯爵家』は、変な遠慮を嫌うもの)
そんな家としての特性を、彼はよく分かっているのだろう。
でなければ、一見すると「無礼」と取られてしまうようなこんな物言いを、何の気負いも無く出来る筈がない。
彼は多分、分かっているのだろう。
セシリアがこの社交場に出てきたのは、例の噂の件について何らかの決着を付ける気だからだ。
もしも噂を避けて通りたいのなら、わざわざこんな所まで出て来はしない、と。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413976983449
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