第7話共同戦線

 俺は、いや、俺たちは恐ろしく運がよかったようだ。

 何故なら大狼のボス夫婦がケガをして狩りができない状態だった。

 俺の記憶では、山犬の群れは厳格に順位が定められ、雌雄のリーダー夫婦しか交尾をせず、夫婦と子供で成り立っていることが多い。

 だからこの群れは、狩りができる親世代と、身体は大きいが狩りの経験が浅い子供世代で成り立っていると思われた。


 最初はあまりにも大きな狼に凄く焦ってしまったが、冷静に考えれば何とかなる。

 そう思ったが、俺の経験通りに行くとは限らない。

 俺の経験は小さな山犬飼育の経験で、大狼は全然違うかもしれないのだ。

 だから弓で戦う覚悟をした上で、大狼に与えるカラスの骨を持って外に出た。

 そして俺は賭けに勝った、大狼は俺の与えたカラスの骨を食べた。

 最初は警戒していたが、よほど飢えていたのだろう、最後は貪るように食べた。


 塵捨て場に捨てられている内臓が少なくてよかった。

 子供たちが飢えていなければ、もっと人数が少なければ、狩った獲物の順番が違っていたら、とても獣臭い狸の内臓は全て捨てていたし、カラスの内臓も捨てていた。

 出来る限り保存食にしようとしていた事で、塵捨て場に捨てた少量の内臓だけでは、大狼六頭の空腹を満たすことができなかったのだ。


 俺は慎重に自分が上位者であることを大狼たちに認めさせた。

 弓を手に持っている事が大いなる自信につながっていた。

 大狼たちがケガをしているとはいえ、リーダーの背に馬乗りなる時や、跨いで下にする時にはとても緊張したが、狼たちが腹を見せたことで安堵することができた。

 その上でカラスの内臓や手羽中や手羽元を与える事で、更に信頼感を構築できたが、一日や一回の成果では安心できない。


 だから、一月以上の時間をかけて、子供たちの便所には必ず俺が付き添って、大狼たちには狩に付き合わせて、狩った獲物の内臓と骨を与えた。

 山犬を手懐けた時の経験が役にたって、子供たちにも大狼たちと一緒に行動する事を学ばせたので、今では大狼たちが子供達を護ってくれる。

 俺がここにいる間はこれで大丈夫だと思うが、問題は俺が何時までもここにいれない事で、一日でも早く子供たちに狩りを覚えて貰わなければいけない。


 年長の子供たちに弓術と槍術を教え、獲物を狩れるようにしなければいけない。

 このままいけば、大狼たちが獲物を人間の所に追い込んできてくれるので、薙刀で四本の脚の一本でも傷つければいいのだ。

 それも一人でやれなくてもいい、数人がかりで足をケガさせればいい。

 倒しさえできれば、大狼たちが急所を噛み破ってくれる。


 大狼たちも年々増えていくだろうから、狼の群れと協力できるなら、子供たちだけで寺子屋を運営できるようになる。

 俺が全身全霊をかけて、一日でも早くその状況に持ち込んで見せる。

 そうなれば武勇に優れない者でも、ここで勉強を教えることができるようになる。


 

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異世界寺子屋 克全 @dokatu

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