第6話手懐け

 子供たちの言葉に俺は衝撃を受けた。

 ここにいる二十五人の子供たちは、親がいないか親に捨てられた子供だ。

 ここで生きる力を手に入れなければ、今後の人生は暗いものになるだろう。

 詐欺女に騙され、ここに連れてこられたことは腹立たしいが、この仕事役目が大切な事はよく理解できた、なんとしてでもやり遂げてみせる。


 だが、だからこそ、あの大狼をなんとかしなければいけない。

 あんな化け物が寺子屋の周りをうろついていては、夜もおちおち眠れない。

 いや、それどころか、子供たちを一人で外の便所に行かせられない。

 独りで便所に行かしたりしたら、そのまま食われてしまうのは明らかだ。

 だったら狩ればいいと詐欺女なら言いかねないが、六頭もの大狼を俺独りで確実に狩れるかと言えば、全く自信がない。


 だから、やれるかどうかは分からないが、昔教わった方法を試すことにした。

 幼い頃、俺を拾って育ててくれた修験道者が、山犬を飼いならした方法がある。

 小さな山犬と大狼では全く違うが、絶対不可能とあきらめるわけにはいかない。

 やれる限りのことをやってみて、それでも駄目なら戦うしかない。

 それだけの覚悟を腹に納めた上で、手懐ける努力をする!


 幸いな事に、ここには大量のカラスの骨と肉がある。

 内臓は痛みが早いので、どうせ今日中に食べなければいけない。

 これを餌付けに利用するとともに、自信のある態度をとらなければいけない。

 落ち着いた威風堂々とした態度で、でも何か話しかける時には表情豊かにだ。

 それに声のかけ方も最初が肝心だ、常に同じ声色と高低で、指示が矛盾してぶれない事が大切だ。


 大狼を驚かしても怖がらしてもいけない、そんな事をすれば最悪攻撃してくる。

 何をするにもゆっくりと堂々と声色も一定にだ。

 俺が大狼を怖いのと同じように、大狼も道の俺が怖いのだ。

 その事を決して忘れずに、互いの距離感を図らなければいいけないのだ。

 それにあれほどの大狼なら、自分たちで狩りをして獲物を確保する力がある。

 今回はたまたま塵捨て場に大量のカラスや狸の臓物が捨てられていたから、それを目当てに集まって来ただけだ。


「みんなはここにいるのだ、便所に行きたくなってもここでするのだぞ」


 俺は思い切って弓を持って外に出た。

 普通なら手槍の方が多数の狼には有利なはずなのに、何故か弓の方がいい気がしたし、実際に手に持つと自信が全身にみなぎるのだ。

 それはその自信を心に秘めて、大狼と対峙する覚悟を決めた。

 

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