第7話二年を振り返って
何が正しいのか全く分からなくなったが、それでも、食糧を作り続けた。
飢える事、飢饉による餓死だけは絶対に嫌だった。
だからどんどん荒地を開拓して農地にし、そこに穀物を撒いて育てた。
その実りは全て魔法袋に納めているが、いいかげん一杯になりそうだった。
ネットで知識を得て、エアーズロック城に備蓄庫を作ったが、岩山を掘って活用するのは何か面白かった。
他にも世界中の調味料を自作できるようになりたくなって、ネットで色々調べた。
この世界の魚で魚醬が作れるか試したが、意外と簡単にできた。
味噌や醤油に酢、発酵を活用したモノを創るのは意外と面白かった。
特に酒造りは面白く、醸造酒や蒸留酒造りには夢中になってしまった。
ゲーム感覚で農地を広げ、地下水を風車で汲み上げ、用水路も整備した。
いつの間にか現地の生物が集まり、俺を手伝い始めた。
二足歩行の人間ではなく、ケンタウロスような、四足に四腕の生物だった。
残念ながら文字はもたず、原始的な言語を使うだけだったが、それでも群れを作って集団生活をしているので、文化文明は築けそうだった。
一番大きかったのは、彼らが雑食性であった事だ。
完全な肉食だと、せっかく広げた農地が全く役に立たず、無駄になっていた。
雑食であれば、農業をして一年分の食糧を確保できるのだ。
呼びやすいのでケンタウロスとするが、彼らは俺の事を神のように敬ってくれた。
飢える心配がほとんどなくなる、農業技術を授けたからだろう。
それと、彼らが好む肉や卵を養鶏で確保することができたのも大きい。
肉と穀物と野菜を安定して手に入れる技術は、彼らにとって画期的な事であったらしいのだが、ここではハタと気がついてしまった。
俺は糞詐欺女神にいいように使われてしまったのではないかと。
一年以上現地知的生物との接触が全くなかった事で、当初の怒りを忘れて、シミュレーション感覚で農業や醸造を広めてしまった。
もしかしたら、俺の完全な勘違いで、この世界の文化文明は著しく低かったのかもしれないのだ。
今目の前にいる、農業すら知らなかったケンタウロスが、この世界の代表的な知的生命体なのかもしれない。
そう思い至ると、大いなる敗北感に打ちのめされた、かと言えばそうではない。
してやられたなという思いは多少あるが、二年も経てば怒りも収まる。
それよりは、このゲームを楽しみたい想いの方が強くなっていた。
ケンタウロスたちには失礼だが、一つの世界を自分の好き勝手に開発するというのはとても面白い。
しかも文化文明まで自由にできるとなれば、初めてのゲームだ。
俺は心の中で苦笑いしながらケンタウロスに日本語を教えるのだった。
異世界壮年協力隊 克全 @dokatu
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