戦争中 リメイク

 第三世界大戦の真っ只中、爆鳴と閃光そして血の香りが荒野の更地に留まっていた。

 何十回の果てしない戦いによって今まで紡がれていた技術は霧のように曖昧になり、人類は疲弊している。

 何故戦い続けているのか、原初の目的はホコリのように叩き落とされ、ただ無意味な時間が過ぎ去る。そんな屍のドームの中で一人の兵士が何やら誰かと会話をしていた。

 「思ったんだけど正義と悪ってなんだろうなぁ」

 屍の壁に背を預けながら片目を抉られた男が屍に向かって喋りかける。

 少しの沈黙が流れる中それを打ち砕くようになくなった目から少しくぐもった声が発せられた。

 「何だ、その急に重たい話は今まで何食べたかの話してただろ」

 瞳から聞こえる誰かの声は途中でノイズが入りながらも、まるで放課後の雑談のように、面倒くさそうに言葉を発する。

 「いやさぁ、俺さぁ朝の時にさぁ、軍曹に我々は正義の執行人だ、死を恐れるな正義のために戦えそして悪を滅ぼせ。ってぇ、死んだ目で言われたんだよねぇ、それで正義と悪ってなんだろうてぇ、疑問に思ったんだよぉ」

 隻眼の男の単純な疑問を止めるように天井から爛れた死肉が落ちて来た。死肉は隻眼の男の肩にベチャッっと死肉を飛び散らせる。

 死肉は隻眼の男のあらゆる部位に付着したが何もなかったかのように、付着した死肉を拭い落とす。

 「聞いてるかぁ」

 隻眼の男は聞こえっていたのか不安になり語りかける。少しのノイズとともに瞳からガビガビの声が聞こえた。

 「ああ、聞こえてるよ。しかし何とも難しい話題を提示してきたな。うーーん。そうだな人によるんじゃないのか。」

 瞳から銃弾と爆弾が破裂した音が発しられる中で出したであろう。ありきたりな考えに「何だぁ、そのつまらない答えはぁ」と隻眼の男は苦言を呈する。

 「何だよ。お前が質問してきたんだろうが」 

 隻眼の男の態度に瞳から熱の籠もった声がする。そんな声に反論するかのごとく隻眼の男は言葉に少しの熱を抱かせる。

 「だってよぉ。お前は童話作家に成りたいんだよなぁ。だったら人によって変わる正義なんてぇ、難しい考え方じゃなくてぇ、正義は善人、悪は悪人って感じに分かりやすくしたほうがいいでしょぉ。これのほうがインパクトもあるしぃ。」

 隻眼の男の考えに瞳から痛いところを突かれたような声がしたあとに「お前に夢を教えなきゃ良かった。」

 とため息とともに愚痴が溢れた。

 そんな情けない声に隻眼の男は短く笑ったあとに「俺はぁ、お前が童話作家になるまで弄り続けるぞぉ、辞めって欲しかったら童話作家になれぇ、俺は」

 隻眼の最後の言葉を遮る大きな爆発音が聞こえ。屍の壁は爆風とともに飛び散る。どうやら隻眼の男が仕掛けた罠が発動したらしい。

 キーーンと甲高い音が耳に残りながら瞳に向かって話しかける。

 「ごめん。大事な場面でぇ遮られたけど俺が言いたいのはお前は童話作家になれると信じてるよぉ」

 隻眼の男は自信たっぷり宣言した。しかしいくら待っても返事は帰ってこない。あたりが暗くなるまで待ったが、自分の罠によって死んだ敵兵を見つめながらいつか返事が帰ってくることを祈った。

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話して笑って生きていて 赤青黄 @kakikuke098

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