第2話【伝説のタックルオジサン】

 時は半年前にさかのぼる。


 東北の某県にて、ある写真がSNS上に拡散された。写真を撮ったのは今年免許を取ったばかりの小柄な女性。今年十九歳。

 彼女は涙目になりながらスマホを操作してSNSに投稿していた。


 マジで意味わかんない!

 赤信号で止まってたら、知らないオジサンがタックルしてきて私の車が横転させられた! 


 横転し、無残にフロントガラスが割れた軽自動車の写真。写真と共に投稿された悲痛な叫びは、主に彼女の友人関係の目に留まる程度だったが、これは事の発端に過ぎなかった。


 数日後、同じく軽自動車が横転する事故が発生。やはり乗っていたのは女性。彼女も「知らないオジサンに車をタックルされた」と供述している。

 幸運な事に彼女に怪我はなく、そして彼女のお腹の中に居た子供にも影響はなかった。だが、彼女の車はボディに張り付けていたマタニティマークを中心に、大きな凹みが出来上がっていた。


 偶然とは思えない事故が続いた。その度に横転した軽自動車と被害者女性の悲痛な叫びがSNS上を巡る。

 あたかもジェットババアのように、タックルオジサンの存在がネット上の都市伝説として形作られてきた数週間後、ついに被害を受けた車載カメラがタックルオジサンの姿をとらえた。


 その姿たるや……

 ”禿なのに”言語的矛盾を体現した頭!

 消防法による指定貯蔵量を超えるであろう体


 その不穏な映像は曖昧な都市伝説ではなく、本当の伝説としてのタックルオジサンが世に認知された瞬間であった。


 ときに!

 強者天才強者天才は引かれ合う!

 巌流島がんりゅうじまにて相まみえた、佐々木小次郎と宮本武蔵のように!

 世界を変えた、発明家トーマス・エジソンと科学者二コラ・テスラのように!

 若い子は知らぬであろう、VHSとベータマックスが巻き起こしたビデオ戦争のように!


 タックルオジサンの出現情報は南下を続け、導きに従うように都内某所の某駅へと着実に進んでいた。

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