邂逅! 伝説のタックル・オジサン VS 八極拳・OL!!

D・Ghost works

第1話【ひっちゃかめっちゃか】

 都内某所、○○駅。

 幾千もの人々が《ひっちゃかめっちゃか》になって行き来する駅のホーム。そこに一人のが歩いている。眉間には深い皴が刻まれ、つり上がった眉に比べて目や頬の肉は垂れ下がり、耳からはヒョロヒョロと白髪が伸びている。

 そのは一人の女性に目を付けていた。


 女性の名前は鈴蘭すずらん

 都内のオフィスで事務員として働く今年二十八歳になるOL。

 働きぶりは非常に真面目。無遅刻、無欠勤、は当たり前。同僚からの評判も良く、去年結婚した産休前の先輩を気遣って、笑顔で仕事を肩代わりする品行方正ひんこうほうせいな彼女には悩みがある。


 それは


 アラサーにもなって免許証を見せないと、お酒が買えない!

 キッチンでは踏み台が欲しい!

 洗濯機はドラム式じゃないと奥まで手が届かない!

 ミニスカートを買っても膝丈だし、デニムはいつもハサミで裾を切ってるし!

 人と話す時は上を向かなきゃいけない!


 人に身長を聞かれれば「一四五センチです!」と答える彼女の本当の身長は一四三センチ。少し見栄を張ってしまうのはご愛敬だが、彼女は折り目正しい女性。数々の苦難を前にしても、ちょっとやそっとじゃへこたれない……だが、ここ数年、さすがの彼女ですら怒っている事がある。それは――


(強烈な視線! この凄みは間違いない……!!)


 から発せられる強烈な気配を感じ取った彼女は、それを避けるように駅ホームの人混みをすり抜けていく。だが人の間を縫うように禿げ散らかしたシルエットは追ってくる。


(むむ! ……自動追尾ホーミング機能システム……この人は!)


!!


 近年、全国的に出現が確認されている人類史上まれにみる奇行種。

 サル目ヒト科ヒト属から独自進化を遂げつつあるミュータントである、と言う仮説が強い彼らの生態は未知の領域が多いが、いくつか判明した特性がある。


特性①:自動追尾ホーミング機能システム。タックルオジサンは狙った獲物を逃さない!


 清廉潔白せいれんけっぱくな鈴蘭は、その優しさゆえに衝突の直前まで、接近するタックルオジサンから回避を試みるのが常だった。だが、悪逆無道あくぎゃくむどうなタックルオジサンは決して彼女を――彼女のようなか弱い者を逃がさない!


特性②:精密ピンポイント爆撃ボミング。タックルオジサンは自分よりを標的にする!


 鈴蘭がタックルオジサンの標的になる理由。それは間違いなく身長が原因だろう。

 駅の改札前、ホーム、電車の中で、今まで彼女は数えきれないほどのタックルを受け、そして同じような被害に苦しむ女性を見てきた。

 狙われるのは女性。金髪、ピアス等でギラギラした女性や、彼氏連れには見向きもしない。小柄な女性や、酷い時などマタニティマークを点けた女性を狙ってタックルオジサン変質者はタックルを仕掛けるのだ。

 そしてタックルオジサンたちは、タックルが決まると大声で怒鳴る。


『バカやろう! どこ見て歩いてんだ!』

『邪魔だ! どけ!』

『小さくて見えねーんだよ!』


特性③:炸裂爆弾エクスプロ―シブボム。タックルオジサンはうるさい!

 

 だが彼女は負けない。堅忍質直けんにんしっちょくな彼女は、この些末な嫌がらせを乗り越えてでも仕事に行きたい。それゆえに――


 鈴蘭の前に迫るタックルオジサン。コンタクトまであと三歩。

 タックルオジサンが、スッと息を大きく吸い込む。炸裂爆弾(大声で怒鳴る)の準備姿勢を取る。

 あと二歩。


「邪魔だ! この――」


 あと、いっ――


 ダァン! と言うキレのある衝撃音と共に吹き飛んだのはタックルオジサン。人混みの中を歩くことに慣れている都内某駅の利用者たちは、吹き飛んできた中年男を容易たやすく避けていく。ゆえに、タックルオジサンは、無残にも駅のホームを転がっていった。

 何が起こったのか理解していない、呆然とした面持ちで……

 そんなタックルオジサンを見下ろして鈴蘭は叫ぶ!


「仕事に行く邪魔をしないでください!」

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