第63話.女王の反抗⑤

「あっ、もしもし、涼太!?」


 鏡原かがみはらみゆりはケロッキーの留守の間、高梨涼太たかなしりょうたに電話した。


 涼太の存在と彼と繋がっていることは、すでにケロッキーにはばれている。


 最早隠れて連絡を取る必要もないが、なるべく話している内容は聞かれたくない。


「あっ、みゆりおねえちゃん! またおねえちゃん家に遊びに行ってもいいの!?」


 涼太の声が弾んでいる。


「違うの! いい? わたしの言うことをよく聞いて。涼太ってまだメタアースのアカウント作ってないよね。急いでメタアースに登録して! あと涼太のお父さん、お母さんさんはメタアースやってる!?」


 スマートフォンの先にいる涼太に対し、みゆりはまくし立てるように話す。


「ううん、お父さんもお母さんもメタアース、やってない」


 涼太がそう答えると、


「それじゃ、お父さんにもお母さんにも早くメタアースをやるように言って! じゃないと、お父さんもお母さんも涼太まで、おじいちゃんみたく殺されちゃうよ!?」


 みゆりの声が大きくなる。


「えっ!? おじいちゃん、殺されたの!?」


 涼太の驚いた声が聞こえる。


 思わずまずいことを口走ったと、みゆりは焦った。


「ねぇ、おじいちゃんは誰に殺されたの!? おねえちゃんは知ってるの?」


 驚きと悲しみを帯びた涼太の声が、矢継ぎ早に質問を繰り出す。


「いや、その、誰が殺したかはわからないけど、でもメタアースに存在しない人はこれから消されていくの!」


 口下手ながらも、みゆりは必死に説明しようとする。


「どういうこと、おねえちゃん!?」


 涼太も困惑しているようだ。


「わたしもよくわからないけど、もうすぐこの今生きてる現実の世界が無くなるんだよ! そして、この前遊んだメタアースの世界が現実に変わるの!」


「えっ、世界が無くなっちゃう?? どうして? そんなことあるの? それになんでそれをおねえちゃんが知ってるの?」


「えっと、それは言えないんだけど、とにかく、お父さんとお母さんにメタアースに登録するようにお願いして! わかった!?」


「う、うん、わかった」


 普通の人が聞けば荒唐無稽に聞こえる自分の話。


 にもかかわらず、その話を聞いて了承してくれた涼太の声で、みゆりは僅かだが安心感を得ることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る