第62話.女王の反抗④
「成り立ち?どういうこと?」
「つまりこの世界がどうやってできたか」
ケロッキーが答えた。
「そんなのわかんないよ。学校で習ったかも知れないけど」
みゆりはぶっきらぼうに返事をする。
「そう、正解。わからないんすよ。世界の成り立ちなんて」
ケロッキーが右手の親指と人差し指で丸を作った。
「は? 何その質問?」
「どう言うことか説明してあげるっす。みゆりが今いるこの現実の世界、もしかしたら、実は現実を支配する存在がいて、その存在がこの世界を5分前に、いや1分前に創世したかもしれない……って、そういう可能性があるんすよ」
ケロッキーが人差し指を立て、ウインクする。
「言ってることわかんないんだけど。世界ができたのが5分前なわけないじゃん。わたし、小さい頃の記憶あるし。親にされたことも覚えてるし」
「だからその記憶自体も作られたってことっすよ。みゆりは親にネグレクトされ、辛い思いした。そして人生に投げやりになって自分の体を売っていた女の子……っていうキャラクターとして創作された存在かもしれないってこと」
「……はぁ?」
「さらに深く可能性を考察すると、この現実だと思っている世界自体、実は現実ではなく誰かの想像の中の世界なのかもしれない可能性もあるんすよ。しかもその可能性を否定する証明っていうのはできない」
「わたしが誰かの創作物だっての?」
「そう。誰かが作った世界で誰かが作ったキャラクターとして、誰かが作った物語を生きている。だとするならっすよ、みゆり自身も物語を創作すればいい。自分の思い通りの世界が創作できる」
「何言ってんのかよくわかんないけど、ケロッキーの言ってる可能性があるとすると、つまりこの現実が実はほんとに現実かどうかわかんないってこと?」
「そのとおり! 現実世界の真実なんてわからないんすよ。さらにこうなってくると、もしかしたら誰かが作った世界の中で、その世界で生きている別の誰かの作った世界の物語を生きているのかもしれない。つまり何が現実で何が幻想かなんて、人間には証明なんてできないんす。それならボクとみゆりで新しい世界を創造することだってできるはず。しかもみゆりが頭の中で想像する理想の新世界を。そしてそれを実現できるのが、まさにメタアースなんすよ」
ケロッキーは歪で不敵な笑いを浮かべ、胸を張った。
自分は自分ではなく、誰かが作ったキャラクターで、誰かが作った物語を生きている。
ケロッキーの言うことが正しいのだとしたら、感謝すらも湧かない毒親の元に生まれ、辛い幼少期を過ごし、そして金を得る為、知らない男達に体を売っていた自分は、誰かに勝手に仕立て上げられ、自分に責任は無いにもかかわらず、辛く虚無的な日々を送らされていたことになる。
だとするなら、ケロッキーの言う通り物語を書き変えられるなら変えてやりたい。
みゆりも当然そう思った。
「……わかったよ。ケロッキーに協力するよ。わたしの脳でもなんでも使ってくれていいよ」
「おー、やっと新世界の女王になる覚悟を決めてくれたっすか。嬉しいっすよ」
みゆりの返答に喜ぶケロッキーに、彼女は一言だけ加えた。
「でもちょっとだけ時間ちょうだい」
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