第59話.女王の反抗①

 鏡原かがみはらみゆりは、気にしないようにしようと思ってはみても、やはり高梨涼太たかなしりょうたの祖父の死が気掛かりで仕方がなかった。


 もしかしたら、自分のせいで涼太の祖父が死んだのではないか…….、そういう悪い想像が頭の中から全く抜けない。


 万が一ではあるが、涼太の祖父が高齢でも流行り物が好きな人で、メタアースに興味を持ちアカウントを持っていたならば、自分の懸念は解消される……。


 そんな細やかな可能性に賭けて、ケロッキーに気づかれないよう、みゆりはこっそり涼太にメッセージを送って尋ねてみた。


 しかし彼からの返答は、やはり祖父はメタアースなどやっていなかったというもの。


 こうなれば直接、この仮想世界を創造したケロッキーに訊くしかない。


「……あのさ」


 みゆりはパソコンに向かっているケロッキーに声を掛けた。


「なんすか?」


 ケロッキーは振り返らずに返事をした。


「もしかしてだけど、ケロッキーのメタアースと現実の世界がリンクしてるなんて……、そんなわけないよね?」


 みゆりは勇気を絞り、訊く。


「……どうしてそんなこと聞くんすか?」


 ケロッキーは変わらずみゆりの方へと振り向くことなく、逆に質問をしてきた。


「ん……、なんかメタアースの人達が、メタアースが現実になるって、おかしなこと言ってたから。それにSNSで流れてくる投稿で見たんだけど、なんか不審死事件があちこちで起きてて、その死んだ人がメタアースのモンスター狩りと同じ感じで死んでるって……。それでちょっと気になってさ」


 みゆりはケロッキーに思っていることを告げた。


「みゆりはそんな現実世界のことは考えなくていいっすよ。これからメタアースで女王として生きていくんだから、そのことだけを考えていれば良いんす」


 ケロッキーは顔を合わせようとしない態度と同じく、みゆりの質問を適当にあしらう返答だった。


「そんな言い方ないでしょ! じゃわたし、メタアースに閉じ込められてるみたいなもんじゃん!」


 ケロッキーの言動に、さすがにみゆりも頭に来て、思わず声を荒らげる。


「クソみたいな現実から逃げ出したみゆりを救って、ここに住まわせてあげたのは誰だと思ってるんすか?」


 ケロッキーはようやくみゆりの方へと振り返り、睨みつけるような目で見てきた。


「あー、そうですか! そーいう言い方されるなら別にいいよ。わたし、ここ出て行くから。

 外出禁止の生活なんてやっぱ息苦しいし。それに別にわたしからメタアースの女王になりたいって言ったわけでもないし。なんかいつの間にか勝手にさせられるわけだし」


 ここを出ても行くあてなどないが、怒りの感情が昂ったみゆりは、つい反射的にケロッキーへ言い返した。


「ここを出ていけると思ってるんすか?」


 ケロッキーの声が一段と低くなる。


「はあ? 別に出ていけるけど」


 みゆりも強がる。


「みゆりはもうボクから離れられないっすよ。もしボクから逃げるのなら、みゆりの連れ込んだあの少年も……、タダでは済まないっすよ?」


 その言葉と、普段見たことのないケロッキーの、まるで蝦蟇がまのように口を左右に大きく引き伸ばした不気味な笑みを見て、みゆりはギクリとし、ようやく恐怖心が彼女の内から湧いてきた。

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