第58話.悪魔達の会話

 贄村囚にえむらしゅうが所長を務めるサバト人生相談所に、夢城真樹ゆめしろまき緑門莉沙りょくもんりさと悪魔側のメンバーが集まって話し合っていた。


 話の内容は勿論、現在、世間を不安に陥れている謎の不審死事件のことである。


「なんかあたしが調べたところ、不審死で亡くなった人の亡くなり方が、メタアースのモンスター狩りと似てるのよ」


 椅子に座っている真樹がそう言って、コーヒー牛乳を入れたカップを口に運んだ。


「わたし、メタアースやってないから知らないんだけど、モンスター狩りって何?」


 ソファーに座っている莉沙が訊いた。


「ゲームと同じですわ。剣で斬ったり、弓で射たり、鞭で絞めたり……。そうやってモンスターを倒して、ケロコインっていうメタアースで使えるお金を貯めるの」


「ふーん、それが事件で亡くなった人とどういう関係があるわけ?」


 真樹の説明を聞いた莉沙が続けて質問をする。


「それがどう関係するのかまでは、まだわからないけど、なんだかメタアースと現実がリンクしているような……。それに亡くなってる人って、調べたところ高齢者の比率が高いのよ。これってどういうことか考えてみたら……」


「メタアースにアカウントを持っていない者か……」


 贄村が答えた。


「たぶんあたり!」


 真樹がサムズアップで応える。


「えっ、だな。わたしもまだアカウント作ってないんだけど。じゃあ、もしかして突然死する可能性があるってわけ?」


 莉沙が不安そうな顔を見せる。


「それはあるわね。莉沙先輩も早く作った方が良いですわよ。メタアースのアカウントはスマホでも作れるから」


 真樹にそう促されて、莉沙は少し焦った感じでスマートフォンを取り出し操作し始めた。


「恐らく、この騒動の黒幕は……、メタアースを利用し、人間の選別を行なっているのだろう」


 贄村が黒い大机に肘をついて言った。


「選別? つまりメタアースを受け入れる人と否定する人ってことかしら?」


 真樹が訊く。


「そうだ。メタアースを受け入れる者、否定する者。或いは時代に従う者、従わぬ者……」


「で、その黒幕って……誰?」


 操作していたスマートフォンから目を離し、莉沙が訊いた。


「そりゃ過去の出来事から考えて天帝でしょ? また人間同士を対立させて終末を引き起こす気ね」


 真樹は立てた人さし指を軽く左右に振りながら、得意げに答える。


「そっか……」


 莉沙は納得したように大きく頷いた。


「……いや、待て。おかしい。メタアースとそれを否定する者を対立させるのであれば、全ての人間がメタアースに登録するように誘導はしないはずだ。黒幕は世の中に突然死を起こし、人々をメタアースに参加するよう仕組んでいる。矛盾だ。これは恐らく他に何か目的があることを意味している……」


 贄村の眼光が鋭さを増す。


 その贄村の目を見ていた莉沙の頬が、軽く紅に染まった。


「まずはそのメタアースの制作者を探らねばなるまい。ネットを見てもメタアースに関しては何の情報も無く謎に包まれている。一体どこの誰が創り上げ、どこを拠点にしているのか、一切が闇の中だ。……真樹、莉沙、頼んだぞ」


 贄村は二人にメタアースの調査を命じる。


「こーいうとき、鬼童院きどういんさんがいたら便利だったんだけどね。ま、莉沙先輩、一緒に頑張りましょ」


 真樹がそう呼びかけると、無言ながらも莉沙は珍しく嬉しそうに僅かに微笑んでいた。

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