第53話.女王の君臨⑤

 鏡原かがみはらみゆりはメタアースの住人に管理人として注目され、また「女王ヒミコ」と祭り上げられて気持ちは上がった。


 ケロッキーは嫌いだが、このメタアースにアクセスし女王でいるにはケロッキーの力を借りるしか無い。


 それにメタアースで新たな人生を送れるなら、毒親からも教師からも、仕方なくやっている売春からも逃れることができる。


 ここでなら過去十八年間の不遇の生活を捨て去ることができるかもしれない。


 ただメタアースの世界が現実になるということが、みゆりにはいまいちピンと来なかった。


「メタアースは良いことをすればケロコインが貯まるのが良いよね! だからここには自然と善人しかいなくなるし」


 アフロヘアーのアバターが言った。


 確かにそうかもしれないと、みゆりは頷く。


「だから悪いモンスターをたくさん狩るんだ!」


 少年のアバターが手を振りながら言った。


「うん、そうだね。でもモンスターって特に街を襲うとか人を襲うとか無さそうだけど、何が悪いの?」


 みゆりは以前から疑問に思ったことを訊いた。


 よく考えてみれば、モンスターはモンスターの森から出てきて、人に危害を加える様子は無い。


 皆がケロコインを集めに自ら森に足を運び、狩るだけである。


「モンスターは、メタアースの世界を否定したり、時代に付いていけない者を具象化したものなんだ」


 眼鏡を掛けた学者風のアバターが言った。


「どういうこと?」


 みゆりには意味がわからない。


「私もよく知らないんだけど、世の中の人みんながメタアースに登録して、人口が増えるのを目指してるんでしょ? だから登録しない人とか否定する人は邪魔なの。ってかこの世界を管理してる女王なのになんで知らないの?」


 頭を三つ編みにした猫のアバターにそう言われて、みゆりは少し苛ついた。


「ごめんねー、わたしもやりたくて女王やってるわけじゃないし。でもみんなメタアースに登録なんて難しい人とかいるんじゃない? お年寄りなんか最新の物とか苦手だろうし」


 自らそこまで言って、ふっと気になった。


 以前、涼太りょうたをこの廃工場に連れてきてメタアースでモンスターを狩りをさせた時、彼の気分が沈んだことを。


 彼の祖父も、ここの倒されたモンスターのように亡くなっていたのだ。

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